ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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もう弱いドラゴンズは飽きた

○3-0広島(25回戦:Zoom-Zoom スタジアム)

 2018年秋のドラフト会議で与田監督が当たりクジを引いたその瞬間から、ドラゴンズは根尾昂との心中の道を歩み始めた。『中日スポーツ』はこの4年間、事あるごとに根尾を1面に据え、球場のファンは根尾が登場するたびにいつもより大きな拍手で出迎えた。根尾昂は、今のドラゴンズで唯一の全国区のスターといっても過言ではない。

 人気に対して遅れを取っていた実力面でも、今季は課題だった三振率が改善するなど健闘。荒削りながらも着実に成長の跡を残し、緩やかながら順調に歩を進めている……。少なくとも客観的にはそう見えていたし、巨人戦で2打席連続タイムリーを放つなど、キッカケひとつで覚醒しそうな兆しは確かにあったように思う。

 しかし、立浪監督はそうは見ていなかった。通算2,480安打を誇る匠の目は、打者としての決定的な “不足” を見抜いていたのだろう。5月8日に二軍の公式戦で投手デビューを飾ると、同月21日には一軍マウンドに登場。正式に投手転向を発表したのは6月13日のことだった。正直に告白すると、私はこの異例の転向に大反対だった。そもそも投手適正があるのならば、なぜ二刀流と騒がれた入団時に野手を選ばせたのか? どんなに説得力のある理由を取ってつけても、所詮は野手育成に頓挫しただけではないのか。

 球団のビジョンの無さ、金の卵をわずか3年で潰してしまう育成力の低さ……。ドラフトの時から覚悟して歩んできた「根尾と心中する道」が、ある日突然途絶えてしまったような虚しさを含めて、私はこの投手転向を素直に受け入れることができなかった。その後リリーフで好投しても違和感は抜けず、一体どういう心持ちで「投手・根尾」を見守ればいいのか、煮え切らないまま試合数を重ね、未だにモヤモヤの払拭には至らず、遂にシーズン最終戦を迎えてしまったわけだ。

野手時代には感じられなかった荒々しさ

 晴天のマツダスタジアム。中堅方向を向き、両腕を大きく広げるところから根尾の登板は始まる。見慣れたいつものルーティンだが、まっさらなマウンドに立つのは一、二軍通じて初。立浪監督が最後の最後でゲームを預けたのは「先発・根尾」だった。

 将来的に先発を見据えるという話は聞いていたが、シーズン中に実現するとは思わなかった。ある意味でぶっつけ本番。このあたりの思い切りのよさは、立浪監督の持ち味といえるだろう。

 初球はど真ん中のストレート。こんな甘いボールを1球目から臆面もなく投げ込むのだから、度胸のよさは一級品で間違いない。簡単にツーアウトを取ると、さらに3番・西川龍馬から5番・小園海斗までを圧巻の3者連続三振である。荒っぽさを相殺し、相手を圧倒するストレートの威力たるや凄まじい。

 小園に対して4球連続ストレートを投じて空振り三振を取り、「どうや!」とばかりに左足でくるりと回転。無意識であっても、このあたりのパフォーマンスの派手さは持って生まれたスター性の成せる技であろう。

「投手・根尾」を見ていて感じるのは、野手時代には感じられなかった荒々しさだ。眼光は元々鋭いが、上から見下ろすような生意気さは「投手・根尾」ならではのもの。医師も目指せたほどの秀才が、マウンドに立てばオラオラ系に豹変するというギャップがおもしろい。懐疑的だった私も、この投球を見てしまえば否応なく好きにならざるを得ない。やっぱりおもしろい選手だ。

もう弱いドラゴンズは飽きた

 3回を1安打無失点という望外な結果を残し、根尾昂の2022年は幕を閉じた。来季に向けて大きな飛躍を遂げた……というより、まるっきり境遇が変わってしまったシーズン。そもそも外野手登録から始まり、ショート、リリーフ、そして先発と、わずか半年の間にいろいろな根尾を楽しませてもらったが、今年だけではなく、ずっと根尾はポジションを転々とし、気づけば「よく分からない選手」になっていた感があった。その意味で明確な持ち場を与えた投手転向は、根尾という才能を生かすための最適解だったのかもしれない。

 来年は入団以来はじめて固定の役割に専念する姿が見られそうだ。「先発・根尾」ーーこの発表を見るたびに、期待と不安の入り混じった感情に苛まれることになるのだろう。

 立浪監督は試合後、「来年は勝ちに行く」と力強くコメントしたという。6年ぶりの最下位に沈んだシーズンだったが、眼前に広がるのは荒涼とした原野にあらず、新緑の芽吹く草原。もちろん根尾もその一人である。

 いい若手は揃っている。21世紀最強クラスのクローザーもいる。最下位に沈んでいる場合じゃない。シンプルに言って、もう弱いドラゴンズは飽きた。そろそろ優勝しよう。本気で優勝を目指そう。これ以上、名門・中日ドラゴンズの看板が汚れるのを見たくはない。

2022年シーズン・完

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter