ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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正捕手の働き〜木下拓哉がみせた影のファインプレー

○2-1巨人(24回戦:バンテリンドーム)

「小笠原慎之介vs.戸郷翔征」

 昨夜、場内に予告先発がアナウンスされた時、中日ファンからは一様に「明日も負けだがや〜」と悲鳴のような声があがった。

 勝利数、奪三振数でリーグトップに立つ戸郷を相手に苦戦は織り込み済み。ドラゴンズの勝ち筋としては、小笠原が耐えてロースコアの展開に持ち込むのみ……。グダグダだった昨夜の一戦とはうってかわり、この日は大半のファンが予想した通りの息詰まる投手戦が繰り広げられた。

 予想外だったのは打線の奮起だ。2点どまりでは “奮起” と言えるのかは微妙だが、取ったタイミングがよかった。初回の先取点と、同点に追いつかれたあとの3回の勝ち越しタイムリー。常にリードを有することで、小笠原の投球も大胆になっていく。

  20発バッターが5人も並ぶ巨人打線は脅威だが、言い換えれば小細工やイヤらしい攻めはなく、一発ないし長打に気をつけていれば案外抑えられるという短所も併せ持つ。破壊力を恐れて慎重になり過ぎたのが昨夜の上田洸太朗なら、見下ろしながら攻めたのが小笠原。ピンチを迎えても慌てず、決め球のカーブを意識させつつ緩急を織り交ぜて翻弄する投球は、まさに “投球術” と呼ぶにふさわしいものだった。

 第1打席で本塁打を浴びた岡本和真に対する第2打席での接し方、7回表のピンチでの冷静なフィールディングなど個別に褒め称えたい点は幾つもある。ただ忘れてはならないのは、投球とは投手と捕手の共同作業であるということ。すなわち木下拓哉の貢献も決して小さくはなく、昨夜15安打9得点と打ちまくった巨人打線をわずか1点に留めた仕事ぶりは正当に評価されて然るべきだろう。

目で殺したホームスチール

 この日おとずれた二度の山場のうち、巨人サイドが明確に仕掛けてきたのは5回表のピンチの局面だった。1死一、三塁が戸郷のスリーバント失敗でツーアウトになり、打席には吉川尚輝。その3球目に一塁ランナーがスタートを切る。吉川のバットは空を斬り、木下はセカンドに送球する素振りこそ見せるも逡巡。その場で三塁走者のポランコを目で牽制するという場面があった。

 あの刹那、木下の脳裏によぎったのは4月22日、丸佳浩に決められたホームスチールではなかったか。打者集中の場面で捕手が思わず二塁に送球し、その隙を突いて三塁ランナーがホームを陥れるという原巨人が得意とする戦法。今季に限らず数年にわたり、ドラゴンズはこれで何度か痛い目を見てきた。

 木下が送球しなかったため巨人サイドの真意は不明だが、仮にポランコがスタートを切っていたら、ショートの土田龍空は冷静にホームで刺すことができていただろうか? 土田の守備センスは本物だが、経験がモノを言う類のプレーではまだ初心者も同然。咄嗟に状況を把握し、無駄なく処理するのは難しかったのではなかろうか。

 それに相手は海千山千の原だ。経験値の低い土田を一瞬の混乱に陥れ、その間にまんまと1点を奪い取るくらいの老獪さは持ち合わせているはずだ。それを未遂に終わらせた木下の判断は、この日の影のファインプレーと呼んでも過言ではなかろう。

 球団では谷繁元信以来10年ぶりとなる捕手での規定打席到達を決め、その翌日に先制タイムリーとナイスリード、そして相手の戦法を見抜く眼力まで見せてくれた。まさしく正捕手の働きである。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter