ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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見えたぞサイ・ヤング賞〜神を超えた高橋宏斗

○3-0東京ヤクルト(25回戦:明治神宮野球場)

 このごろ世間に流行るもの。56号、三冠王、マジック4にヤクルト1000……。朝、ニュースを付けたら「村上新記録なるか」という話題が流れていてびっくりした。大谷翔平ならともかく、プロ野球の一選手がこうして脚光を浴びるのはめずらしい。もはや「村上宗隆」は野球ファンの枠を越えた国民の関心事なのだ。

 何日か前には「ヤクルト1000」の増産に踏み切るという記事も見かけた。物が売れない時代にあって品切れ続出の乳酸飲料は、今年を代表する大ヒット商品のひとつだ。加えて優勝目前とくれば、ヤクルト社内はさぞかし活気に満ちていることだろう。

 かたや6年ぶりの最下位が間近に迫っているドラゴンズには相変わらずいい話題がない。明日が福留孝介引退セレモニーだというのに記念グッズの当日販売が無いことが判明。ファンから続々と不満の声があがっているが、そりゃそうだろ。祭りの記念品は現地の熱量とセットだから思い出に残るのであって、後日郵送で届いたところで有り難みは半減どころではない。

 チケットはほぼ完売しており、明日は大勢のファンが詰めかけることが予想される。店頭販売すれば三連休のテンションもあいまって飛ぶように売れるだろうに、このあたりのフットワークの鈍さはどうにかならんのだろうか。怒りを通り越して呆れすら感じ、さらに呆れを通り越して寂しくなる。『中日新聞』は政治問題を追及する前に自社の体質を自己批判した方が早いんじゃないか。たぶんその方が読者のニーズにもかなうぞ。

 ーーなどという余談は置いておいて。今夜の見どころはなんといっても高橋宏斗vs.村上の対決。全国的な注目を集める “村神様” に弱冠ハタチの若者がいかにして対峙するのか。3打席の対決は、いずれもプロ野球の凄みが詰まった濃密なものだった。

逃げも隠れもせずに真っ向勝負

 第1打席は2回裏。打者に全集中できる状況で、高橋は逃げも隠れもせずに真っ向勝負を挑んだ。初球はアウトローへのストレート。ここまで素直にストライクを取りに来るとは予想外だったのだろうか、村上が微動だにせずこれを見送る。2球目、初球と同じコースからストンと落ちるスプリットに「56号」を狙ったバットが空を斬る。簡単に追い込むも、3,4球目は高めに外れてカウント2-2。

 フルカウントにしたくない高橋と、次で仕留めたい村上。バッテリーが選択したのは……高めのストレートだった。150キロ以上の球速帯も難なくスタンドに運ぶ化け物に対し、恐れることなく腕を振れる度胸の強さはまさしくエースのそれ。この1球だけ見ても、高橋宏斗という投手がいかに規格外であるかがはっきりと表れていた。

 しかし、さらに度肝を抜かれたのは4回裏の第2打席の対決だ。1球目から3球目まで異なる球種を150、130、140キロと緩急を交えて翻弄。カウント1-2からの4球目こそ外れたものの、最後はこの日最速の157キロを外角いっぱいに投げきり、なんと2打席連続三振に打ち取ったのである。

 一流投手は経験を積むにしたがって「ここに投げれば大丈夫」というツボを心得ると聞いたことがあるが、高橋は高卒2年目にして投球とは何たるかを早くも習得してしまったようだ。相手が村上であろうとお構いなしにストライクゾーンで勝負できる胆力と、ここぞでの制球力。惚れ惚れするような投球とはまさにこの事である。

 7回裏の第3打席はこの日初めてランナーのいる場面で村上を迎えたが、ここにきても球速、球威ともに落ちる気配はなく、ストレートで空振りが取れるのは驚異的の一言だ。フルカウントからの6球目はやはりストレート。さすがに村上も3三振を喫するほど甘くはないが、狙い打ったような飛球がスタンドまで届かなかったことがボールの強さを証明している。

 アーロン・ジャッジも村上も、今や四球を与えるだけでブーイングが発生する選手である。その村上に対して全打席ストレートで打ち取った高橋宏斗の勇姿なんて、きっと明日の情報番組は触れもせずにスルーするに違いない。だが中日ファンのみならず、野球好きの心には深く刻み込まれたはずだ。

 数十年、いや数年後……。村上56号の話題が出たとき、我々はきっと語らうのだ。「それにしても56号を阻止した高橋宏斗の投球は凄かったよな。そりゃサイ・ヤング賞も獲るわなーー」と。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter