ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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心地いい緊張感の中で〜村上vs大野雄大 極限バトル

○8-0東京ヤクルト(22回戦:バンテリンドーム)

 息子がライオンズ戦を見たがっていたので週末のベルーナドームのチケットを取ろうとしたところ、目ぼしい並び席はすでに完売。ひとり席がちらほらと残っているだけだった。

 あぁ、そうか。優勝を争うチームにとって、この時期は激しい首位攻防戦の佳境も佳境なのだ。秋風吹けば消化試合というシーズンを10年も続けているうちに、季節感を失っていたことにハッと気付かされた。本来ならプロ野球観戦が最も楽しい時期だというのに……。

 この時期のバンテリンドームは、最終戦を除いて閑古鳥が鳴くのが恒例となっている。ところが今夜はプレイボールがかかって間もなく7,8割が埋まる活況ぶり。「ファイナルシリーズ」と銘打ってキャンペーンを張った効果も多少はあるかも知れないが、今夜の集客の主な理由はおそらくそれではない。ファンが観にきたのは歴史的な瞬間ーーそう、村上宗隆の56号本塁打への期待感が秋のバンテリンに野球ファンを呼び込んだのである。

 ただし、それはヤクルトファンの道理だ。こちらの心理としては本拠地では打たせたくないし、むしろ大野雄大が大記録を阻むことを期待して足を運んだドラゴンズファンがほとんどだろう。まして大野は前回対戦で50号を打たれているため、今回の記録阻止にかける想いは並々ならぬものがあったはずだ。

 チーム的には消化試合と言って差し支えのない位置にいるが、今夜に限っては天王山でも戦っているかのような緊張感が終始漂っていた。ヒリヒリした、固唾を飲んで見守る戦い……。この時期にこういう空気を味わうのは、なんだか随分久しぶりな気がする。

チーム全体が消化試合仕様の体質になっていても不思議ではない

 2回表、先頭で村上の第1打席が回ってきた。いや、令和最強スラッガーと沢村賞左腕の極限バトルは「第1ラウンド」と表記した方が適切だろうか。メインイベントを迎え、水を打ったように静まり返るスタンド。数万の視線がマウンドとバッターボックス、二人の一挙手一投足に注がれる。

 注目の初球はアウトローに大きく外れる真っ直ぐ。悠然と見送る村上に対し、大野は表情こそ強(こわ)ばらせながらもテンポよく2球目、3球目と投じていく。強打者と対峙した時、慎重になるがゆえに投球に時間を要し、いつのまにか打者の “間” に入ってしまうというケースがしばしば見受けられる。だから松本幸行ばりの “ちぎっては投げ” が異質に感じられたが、経験豊富な大野のことだ。おそらく意識的にスピードアップを図ったのだろう。

 カウント2-2からの6球目、伝家の宝刀ツーシームに村上のバットが空を斬った。その瞬間、スタンドから拍手喝采が沸き上がる。普段の首位vs最下位ではなかなか見られない光景だが、若手にとってこの経験は多少なりとも刺激になるはずだ。

 チームの低迷は目標の喪失を招き、緊張感を弛緩させてしまう。13日のDeNA戦での守備走塁での相次ぐ凡ミスは、まさしく集中力の欠落といえるものであった。

 やはり人間、それなりの緊張感がなければダメだ。きちんとやっているつもりでも、優勝を争っているチームとはどうしたって細かい部分での集中力の差が出てしまうものだ。いわんや10年も低迷が続けば、チーム全体が消化試合仕様の体質になっていても不思議ではない。

 ところが今夜はゲームセットを迎えるまで緊張感が持続していた。9回のマウンドに立ったのは根尾昂。フルカウントからの6球目が外れた瞬間、スタンドから一斉にため息が漏れた。8点リードで迎えた最終回、四球ひとつにこれだけ観客が反応するのもめずらしい。

 心地いい緊張感だ。こういう雰囲気を味わってこそチームは強くなるのだ。やっぱり9月のプロ野球は、こうでなくちゃ。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter

 

【特報】

当ブログ執筆陣のひとり・加賀一輝先生が『文春野球』にて本格デビュー! 福留孝介への愛を余すところなく語り尽くしたぞ。よい子のみんなはちゃんと最後まで読んで「HIT」ボタンをポチろう!

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