ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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勝ち運なき勝野

●0-5阪神(24回戦:甲子園球場)

 負けた。勝野がまた負けた。いや、また勝てなかったと言うべきか。これで昨年から続く勝野昌慶の「連続先発機会白星なし」は19登板に伸びた。最後に勝ったのは昨年4月28日の阪神戦。6回1/3を無失点という文句なしの投球でチームトップとなる3勝目をマークしたのが、この日だった。

 勝野のキャリア最多は2020年に挙げた4勝である。春先に幸先よく3勝したことで誰もが更新を確信し、更なる飛躍を期待した。同期入団の根尾昂があまりにも話題を集めたため隠れがちだが、勝野も即戦力と目されてのドラフト3位指名であり、3年目ともなれば二桁勝利くらいは堂々と狙ってもいい立場だ。

 その勝野がぽんぼんと勝ち星を重ねれば、当然「右の柱に」という声も沸き上がる。これに対して勝野は「ありがたいですけど、僕の中では今ではないと思ってます」と謙遜。今にしてみれば「本気で取りにいきます」くらいの強気なコメントをしておいた方が良かったので? と、どうしても思ってしまう。

 まるで謙遜という名の弱気を勝利の女神に見透かされたかのように、ここから勝野は今に至るまで、敗戦の荒野をさまよい続けている。援護がないなら自分で打つまでとばかりにホームランをかっ飛ばせばリリーフ陣が打ち込まれ、たまに援護があったかと思えば自分が打たれるちぐはぐさ。

  なぜここまで勝てないのか。無敗記録が脚光を浴びることはあっても、個人の “無勝記録” というのは聞いたことがない。

 それも “連敗” ではなく単に白星が付かないという状況は、記録の神様・山内以九士さんや千葉功さん(共に故人)でさえ把握しているかどうかは微妙なところだ。勝ち運の無さと、自チームの絶望的な貧打が両立してこそ成り立つこの珍記録。さすがに「19」まで伸びれば密かに日本レコードに触っているような……。気になるので、どなたか調べていただけるとありがたい。

 ちなみに「連続登板機会敗戦なし」の日本記録は、近鉄や日本ハム、阪神でプレーした柴田佳主也が持つ235試合なのだとか。'97年5月15日から'04年7月16日まで足掛け7年間、負けずに投げ続けたわけだ。キャリア全259登板でわずか1敗。これもなかなか凄い記録である。

振ってこそのバット 痛恨の見逃し三振

 援護がなければどんなスーパーエースとて勝つことはできない。ただ、今夜に限っては自分自身の力で重い扉をこじ開けることもできたはずだ。1点を失った直後の5回表、ドラゴンズに願ってもないチャンスがおとずれた。先頭・高橋周平のエラー出塁を足がかりとして1死一、三塁。打順は9番に回ったが、ベンチは代打を送らずに勝野をそのまま打席に立たせた。

 4回1失点の先発投手を交代するには早すぎるし、2割7分を超える勝野のバッティングに懸けた部分もあったのだろう。最近のドラゴンズといえばもっぱらスクイズでの得点が目立つが、あれは奇襲だからこそ生きるのだ。まして露骨にスクイズを警戒する阪神内野陣に対して仕掛けるのは無謀以外の何物でもない。

 結局勝野はカウント1-3から2球ストレートを見逃して凡退するのだが、いわゆる “勝てる投手” はこうした場面で打点を挙げるのではなかろうか。バットを握って打席に入る以上は投手も9人目の野手なのだ。せめてストライクゾーンに来た球は振ってほしかったし、それで空振りしたって誰も責めやしない。

 5球目に一塁ランナー土田龍空の盗塁で二、三塁となっただけに、ゲッツーのリスクも少ないこの場面で振らずに終わってしまったのが残念でならなかった。なまじフルカウントとあって四球がちらついたのかも知れないが……。

 かつて「振れば何かが起こる」という信念のもと、意外性のある一打を何度も打った非力な打者がいた。そう、ただ立っていても何も起こらないのだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter