ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ゴロ2本〜祖父江大輔の渋い働き

○6-3東京ヤクルト(21回戦:明治神宮野球場)

 狙って三振を取れる投手は強いと、高橋宏斗の投球を見ながらつくづくそう感じた。

 ハイライトは4回裏だ。この回無死から2連打を浴びて失点。なおもランナー二塁という場面で打席には村上宗隆。第1打席ではストレートの四球を与えているが、ここでも無理せず勝負を避けるという選択肢は十分考えられた。いくら後続の打者が強力とはいえ、それで村上との勝負を選び、散々痛い目に遭ってきたではないか。

 ピンチでの村上勝負が無謀であることは分かりきっている。ましてリードは1点。一発出ればたちまち逆転という場面だが、それでも高橋は果敢に挑むことを選んだ。高橋20歳に対して村上22歳。球界新時代を思わせるこの対決を「頂上決戦」と呼ぶのは、さすがに高橋を買い被り過ぎだろうか。

 いや、そんなことはない。カウント2-2からの5球目、151キロを計測した渾身のストレートで空振り三振を奪う姿は、既にこの若者が異次元へと足を踏み入れつつあることをはっきりと物語っていた。顔をしかめる村上に対し、高橋は努めてクールを装っているように見えたが、球界最強打者から “ここぞ” の場面で快心の三振を奪ったのだ。内心では相当な充実感があったに違いない。

 しかし高橋が偉いのは、ここで慢心して集中力を切らさないところだ。オスナにこそヒットを許したものの、一、三塁からサンタナ、内山壮真を圧巻の連続三振に封じてピンチ脱出。狙って三振を取れるだけの強いボールを持っているからこそ、マスクを被る木下拓哉も三振を前提にしてリードを組み立てることができるし、それに応えられる高橋の精神力と技量も並はずれたものがある。

 ちなみにこの日の10奪三振の内訳は、スプリット6に対してストレート4。多彩な球種を駆使して打者に的を絞らせず、反応などを見て決め球(スプリットとストレート)を選択しているというわけだ。これだけの芸当ができれば、面白いように三振が取れるのも納得がいく。追い込んだらほぼ三振という高橋の投球ほど、見ていて爽快なものはない。

 ただし狙って三振が取れる投手がいるように、狙って本塁打を打てる打者もこの世には存在するのだ。5点という大量リードに守られた6回裏、やや浮いたスプリットを村上のバットが捉えると、高々と舞い上がった打球は左中間スタンドに着弾。どこか観念したように打球の行方を追う高橋の表情が印象的だった。上には上がいることを痛感した夜。またひとつ高橋はエースの階段を登った。

この手練れは狙ってゴロを打たせる

 この一発を浴びたところで降板し、まだ “村神” の余韻が残る中でマウンドを引き継いだのは背番号33、祖父江大輔だった。リードは3点。乱打戦になりやすい神宮球場であること、まだ村上に打席が回ることを考えれば、セーフティリードとは到底言えない点差である。

 ここでランナーを溜めるような展開になれば、たちまち流れは相手に行きかねない。加えて高橋の投球に苦戦していたヤクルトからすれば、早めの継投はむしろ歓迎だったのではなかろうか。それだけに祖父江がここを二人で断ち切ったのはとても大きな意味があった。それも内野ゴロ2本という、気勢を削ぐには最高の形で、だ。

 投手が代わったことに気をよくして大振りしてくる両外国人の思惑を見透かしたかのようなコーナーワークは、さすがベテランの技といったところ。

 高橋のように狙って三振は取れなくとも、この手練れは狙ってゴロを打たせるというわけだ。派手さはないが、今夜はこのゴロ2本がターニングポイントとなった。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter