○5-2阪神(21回戦:バンテリンドーム)
昨夜の巨人戦を終えてどこか虚無に襲われたのは、二度の満塁を活かせなかったことよりも、9回無死一塁でのバント失敗ダプルプレーがあまりにも痛かったからに他ならない。その当事者である土田龍空は、ナゴヤに移動したこの日さっそく早出のバント練習を行ったという。
里崎智也氏いわく「バントが上手なプロ野球選手などいない」。なぜなら、アマチュアでバントを命じられるような選手はそもそもプロにはなれないので、プロ野球の選手はプロに入って初めてまともにバントの練習をするのだと。
目から鱗だった。たしかに浅野翔吾(高松商)や内藤鵬(日本航空石川)がバントをしているシーンは見たことがないし、プロ入りの指標になるのは「通算打率」や「本塁打」であって、「犠打数」などそもそも評価対象から外れている感さえある。
それは浅野や内藤のようないわゆるスラッガーではなく、土田のような小兵タイプにも当てはまる事だ。近江高時代はとにかく守備に定評のあった土田だが、1年秋から名門校で3番を打ち、高校通算30本塁打と決して守備だけでドラフト指名されたわけではない。
その土田も、才能の上澄みの集まりであるプロの世界では “非力な2番打者タイプ” のカテゴリに振り分けられ、おそらく今後もバントを初めとした小技を求められる宿命からは逃れることができないだろう。もっとも、ここからビルドアップに成功して坂本勇人、松井稼頭央のような超人路線を歩む可能性もゼロではないが……。
せっかく掴みかけているレギュラーの座を、バントが苦手という理由で手放してしまうのはあまりにも惜しい。幸いバントというのは、慣れと練習量に応じて確実に上達する技術だ、と野球経験者は口を揃えて語る。ならば、土田は鍛錬を積み上げるのみ。少なくともドラゴンズ打線が貧打であるうちは、走者を地道に進塁させるためのバント策は(賛否あるにせよ)積極的に行使されるはずだ。2番や下位打線を打つ機会が多い以上、レギュラーを確固たるものにするためにもバント技術習得は必須である。
思わず息を呑んだ “高速転送”
プロ選手に傷心している暇はない。この日も土田は7番ショートで出場。追われるように過ごす毎日の中で、全国を飛び回りながら着実にレベルアップしていかなければ職を失ってしまうのだから、プロ野球選手という職業はおそろしく過酷だ。
そんな世界の最前線で19歳にして奮闘する土田だが、この選手は毎日何か一つ惚れ惚れするようなプレーを見せてくれる。バントミスの印象が強烈な昨夜だって、戸郷翔征から放った2安打目は素晴らしく技アリの一本だったし、緩慢守備の隙を逃さずに二塁を陥れた走塁には目を見張る鮮やかさがあった。
さて今夜はどうだったか。3試合連続マルチ安打も見事だったが、思わず息を呑んだのは守備。4回表、無死一塁でのダプルプレーだ。大山悠輔のセンター返しは完全に抜けるかに思われたが、セカンド溝脇隼人が間一髪で掴み取り、難しい体勢から土田にトス。これを受けとるや、ランナーのスライディングなど気にするそぶりもなく一塁転送した動作の無駄のなさと来たら、まさしく「プロ野球」そのものであった。
特訓中のバントを披露する機会も早晩訪れるだろう。打って守って走って、送ることもできれば……そのとき土田は紛うことなきレギュラーと呼ばれる存在になるのだろう。
木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter
【参考資料】