ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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巨人を最下位に突き落とせ!③〜エース高橋宏斗、間合いの妙

●1-2巨人(20回戦:東京ドーム)

 プロ2年目と4年目によるバチバチと音が聞こえてきそうな次世代エース同士の投げ合いは、ハーラートップタイを走る戸郷翔征に軍配が上がった。試合終了の瞬間、東京ドーム内に響き渡る「敗戦投手・高橋宏斗」という無情のアナウンス。

 また勝ちを付けることができなかったか……。相次ぐチャンスをことごとく潰した打線に対して、言いたいことは山ほどある。特にバッティングを期待されて先発起用されながら、3打席3三振に倒れた福田永将については……溜め息しか出ない。ただ、負け試合にもかかわらず充実感があるのは、高橋宏斗という逸材の底知れぬポテンシャルをあらためて確認できたからである。

 川上憲伸氏が「既にドラゴンズのエース」と公言して憚らない20歳の投げっぷり。それは巨人を牽引する戸郷と比べても、何ら引けを取るものではなかった。7回2失点という結果もさる事ながら、目を見張ったのはマウンドでの所作、仕草だ。

 たとえば4回裏、先頭・坂本勇人のツーベースでこの日初めてピンチを迎えた際の投球を思い出して欲しい。打席には絶好調の丸佳浩。この嫌な相手に対して高橋は、投げ急ぐことなく、力むことなく、サインに頷いた後でもう一度ロジンを手に取るなど、一貫して打者の間合いに入らないよう、細かい工夫を重ねていたのだ。

 どうしたって打者との勝負にイレ込みがちな場面でも、高橋は冷静さを失わず、自分の間合いに持ち込もうとする。剣道や古武術では間合いの取り方ひとつで勝負が決まると言われるが、おそらくこうした所作、仕草は練習で身につくものではなく、生まれ持ったセンスの面が強いのだろう。そういえば松坂大輔も間合いを取る達人であったが、高橋宏斗もまた “野球に選ばれた選手” だと言えるのかも知れない。

末恐ろしいなんて言葉は似合わない

 高橋のボールが明らかにバラ付き始めたのは、1点ビハインドの7回裏のことだ。岡本和真をフルカウントから三振に打ち取った直後、スタミナが尽きたように3者連続四球を与えた。思うようにボールを制御できない苛立ちが、捕手の返球を急かすように捕りにいくなど仕草にも表れる。限界を迎えていたのは、どこからどう見ても明らかだった。

 2死一、二塁とし、落合英二コーチがマウンドに向かう。誰もが交代と思った。しかし、立浪監督が出てくる気配はない。なんとベンチの判断は、続投……。戸郷がそのまま打席に入ったから続投に踏み切ったのではなく、たとえ代打が出てきても、おそらく高橋は投げていただろう。

「エースたる者、最後の一人はテメェで抑えろ」という無言のメッセージだろうか。それに応えるように、高橋は最後の力を振り絞り、見事に戸郷を打ち取ったのである。

 フィニッシュとなった116球目は、真ん中高めへの甘いカットボール。戸郷でなければ外野の頭を抜けていただろう。それでも結果オーライ。打球は前進していたレフトのグラブに収まり、高橋はこの日の仕事を果たしたのであった。

 試合には負けたものの、高橋にとっては収穫だらけの登板になったはずだ。116球はプロ入り後最多。最後はスタミナ切れを起こしたが、このペース配分だとこれだけバテるという経験が、20歳の若き肉体と頭脳に記録されたことに意味がある。何よりも、前回は九里亜蓮、今回は戸郷と、一流投手たちとの投げ合いがその進化を更に促したのは間違いない。

 末恐ろしいなんて言葉は似合わない。高橋宏斗は、現在進行形で恐ろしい投手だ。だから、あとは白星さえ付いてきてくれれば……。まぁ、それがこのチームでは一番難しいのだが。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter