ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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巨人を最下位に突き落とせ!②〜ビジター男の投球術

○4-1巨人(19回戦:東京ドーム)

 イヤだな〜、イヤだな〜と。心の中の稲川淳二がざわつき始めたのは、3回表を終えた時の事だった。印象の割に、点数が少なすぎるんですよねぇ〜と、淳二がギョロリとこちらをにらむ。

 3回終わって早くも6安打。さらにパスボールやら送球エラーが重なり、間違いなく試合はドラゴンズ優勢で進んでいた。サッカーでいう「支配率」で表せば、9割方はこちらが主導権を握っていた感覚だ。

 ところが、である。肝心の得点はわずか3点止まり。もう5,6点は取っていてもおかしくないほど攻めまくっているように思えて、実は大して効率よく得点できていなかったわけだ。結局、序盤でノックアウトできそうだった井上温大も5回途中まで粘り、1死一、二塁のチャンスも鍵谷陽平に抑えられてしまった事で、いよいよ情勢は怪しくなりつつあった。

 いくら下位に低迷するとはいえ、東京ドームの巨人打線が脅威であるのは変わらない。3点くらい、それこそ少し勢いが付けばたちまち追いつかれたって不思議ではない。現に、我々はこれまでに数えきれないほどの逆転負けをこの球場で喫して来たではないか。

技術で「東京Dの巨人打線」を抑え込む

 様々なトラウマがフラッシュバックする中で、気付けば試合は終盤を迎えていた……。あれ? 巨人の反撃は? そうなのだ。「必ずどこかで来るぞ」と警戒していた反撃が、一向に来ないのだ。

 それもそのはず、6回までに巨人が出したランナーは丸佳浩のヒット2本のみ。それ以外は完璧に封じるほぼ完璧なピッチングを、この日先発の松葉貴大が黙々と続けていたのである。

 「バンテリン専門」とか「5回までの男」とか、松葉ほど珍奇なレッテルを貼られた先発投手を私は知らない。例え統計的にそうした傾向が出ていたとしても、その通りに起用されるケースはあまり聞いたことがない。せいぜい大野雄大でいうマツダスタジアムのように、極端に苦手とする球場では投げさせないとか、その程度の配慮に留まるのが普通である。

 その点、松葉の起用法は徹底していた。どんなに調子よく投げていても5回が終わるとスパッと降板し、ビジター球場では決して投げさせないという過剰なまでの配慮。体力の衰えてきたベテランならまだしも、まだ32歳の働き盛りとしては、悔しさがまったく無いと言ったらウソになるだろう。

 とはいえビジターで投げさせるのも、6回以降のマウンドに立たせるのも「怖い」という首脳陣の気持ちはよく分かる。それに制限の中で松葉は十分な働きを見せていたし、わざわざ縛りを解いたせいで調子を崩される方が、チームとしては痛いのは確かだ。

 それでも永久にそんな事を言っているわけにもいかないので、6月9日のロッテ戦で試験的にビジターで登板。ここでまずまずの内容を残すと、7月からは遂に投球回数の縛りも解除され、その後も文字通り「先発ローテ」の一角として申し分ない働きを見せている。それどころか、今夜の好投でビジターの今季成績は23回1/3を投げてわずか4失点、防御率1.54。ホーム専門どころか、すっかりビジター男である。

 松葉の後を継いだ谷元圭介、ジャリエルが相次いでピンチを作ったところを見ると、6回2安打無失点の松葉がいかに安定していたか。と同時に、巨人戦打線がいかに苦戦していたかがよく分かる。何しろ松葉は制球が乱れない。無四球という結果が表すように、多少ボール先行になっても、自分のカウントに戻す技術を松葉は持っているのだ。

 東京ドームの巨人戦はどうしても空中戦のイメージが強いが、160キロの豪速球が無くても “技術” で大砲巨艦を抑え込むことは可能というわけだ。久々にマスクを被った石橋康太にとっても、学びの多い試合になったはずだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter