ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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破壊の美学〜村上宗隆の襲来

●2-7東京ヤクルト(17回戦:バンテリンドーム)

 怪獣映画の白眉は都市破壊シーンにある、といっても過言ではない。東京に現れた初代ゴジラが国会議事堂を壊したとき、映画館の観客から歓声と拍手が沸き起こったというのは有名な逸話だ。『シン・ゴジラ』ではうねうねと移動する通称「蒲田くん」が下町を無惨に壊しまくるシーンが話題を呼んだ。

 東京タワーに繭を張り、成虫へと羽化したモスラをはじめ、シリーズを通してキングギドラやラドンといった大怪獣たちは六本木ヒルズ、さっぽろテレビ塔、みなとみらい、名古屋城、福岡タワー等々、日本中の100万都市に出現しては執拗にランドマークを破壊し、その “勇姿” は怪獣映画の見せ場として人気を博した。“破壊の美学” とでも言おうか、圧倒的なパワーによって蹂躙される街々を通して、人はある種の快楽的な屈服を得る事ができるのかも知れない。

 かつて日本の野球界には「ゴジラ」の愛称を持つ大打者が存在した。そのバットから放たれる豪快な打球はどこまでも飛んでいきそうなほどの迫力に溢れており、現にナゴヤドームで開場以来初となる5階席への一発を記録したのも、この男だった。

 それだけではない。実はこの男……松井秀喜はナゴヤドームを異常なまでに得意としており、開場からの6シーズンで通算28本塁打(OPS1.178)と、まさしく怪獣的にアーチを量産しまくった挙句、更なる破壊を求めて海を渡ったのであった。

 真のホームランアーティストにとって球場の広さが問題にならないのは、この「平成ゴジラ」が20年も前に証明済なわけだが、まさか元号が変わり、先代を凌ぐ破滅的な大怪獣が襲来しようとはーー。

 奇しくも背番号は松井と同じ55番。今シーズンは既に5本のアーチを献上しているが、これはビシエド、鵜飼航丞、阿部寿樹の3本を凌ぐ同球場の最多本数である。もちろんバンテリンドームは、彼にとってはビジター球場にあたる。困ったものだ。

茫然自失と降参するしか術はない

 若手の躍動によりサヨナラ勝利を収めた昨夜の勝因の一つは、村上宗隆に本塁打を許さなかった事であろう。その流れでこの日の先発は小笠原慎之介。目下24イニング連続無失点を継続中と、村上封じには打ってつけの投手のはずだった。

 それが3回表にさっそくバックスクリーン左に特大の一発をお見舞いされると、3点差となった7回表には、ダメ押し2ランをライトスタンド中段まで運ばれてしまうのだ。

 こうなると「悔しい」を通り越して、まさしくゴジラに破壊される建造物を眺めるが如き心地で、茫然自失と降参するしか術はない。打球が右翼手の遥か頭上を越したあたりでようやくゆっくりと、のっそのっそと巨体を揺らしながら走り出す姿には、思いがけず “美しさ” すら感じてしまったほどだ。

 小笠原の投じたボールも決して甘いわけではなく、最初は低めのスライダーを、二度目は内角のストレートと、キャッチャーの要求通りに投げた上でやられているのだから、現状では手の施しようがなさそうだ。もっとも各球団が同じ苦悩を抱えているからこそ、2位に21本差という狂った独走状態が生まれているのだろう。

 救いがあるとしたら、村上の猛威に対してまったくの無抵抗ではなかったという点か。三好大倫がライナー性で飛び込む記念すべきプロ初号を放てば、9回裏には石垣雅海もレフトポール直撃の2号弾で応戦。夏休みの最後に3万人の観衆を集めた試合で零封負けなんて事になれば目も当てられなかったが、二人の躍動がせめてもの慰めになった。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter