ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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新時代とマルチタレント

○4x-3東京ヤクルト(16回戦:バンテリンドーム)

「厳しい言葉ですけど今までのレギュラーだと勝ててなかったわけです。(今まで)Aクラスにギリギリ入るようなチーム状況だったので、勝てるチームのレギュラーを作っていかなきゃいけないと立浪監督は考えていると思っています」

 8月14日放送回の『サンデードラゴンズ』のなかで、若手を積極起用する立浪監督の意図を谷繁元信はこう説明したそうだ。谷繁が監督を務めた時期(2014-16年途中)も過渡期とは呼ばれていたものの、衰えるベテランに対してその座を脅かすような若手の台頭はほぼ無いに等しく、かろうじて高橋周平が頭角を現した、そんな時代であった。

 あの頃に比べれば、今は夢のような状況だ。この日もスタメンには岡林勇希、三好大倫、レビーラ、土田龍空と3人のアンダー25が名を連ねるなど、来季以降を見据えた陣容は着々と固まりつつある。特に岡林は完全にレギュラーの座を掴みとり、既に次のステップ……いわばリーグを代表するリードオフマンへの道を歩み始めている感さえある。

 9回裏は先頭の木下拓哉が三塁打を放つと、ヤクルトサイドは満塁策を選択。後藤駿太、三ツ俣大樹を歩かせて土田との勝負を選んだわけだが、おそらく多くの中日ファンは「土田ならやってくれる」という確信を抱きながら、あの対戦を見守っていたのではないだろうか。打率1割9分という数字とは裏腹に、印象に残るヒットを打つのが土田の面白味だ。

 非力ながら、簡単にはアウトにならない器用さを持ち合わせる。この日も第1打席に9球、第2打席に6球を投じさせ、最終打席もツーボールから3球連続でファウルを打つ粘りを見せた。最後は空振りを取りにきたフォークにうまく合わせて一、二塁間を破り、初めてのサヨナラヒーローとなった。

 同じような場面で、同じようなフォークを空振りする打者はこれまで何人も見てきた。無死満塁も気勢よく攻められるのは最初だけで、アウトカウントが増えるたび、逆に追い詰められるような気分になるものだ。もし土田が倒れていたら、たちまち球場には「またか……」というムードが広がっていた事だろう。

 ところが新世代の旗手達は、そんなに柔ではなかった。岡林も土田も、近年のドラゴンズにあるまじき勝負強さを持つ。ああ、これが勝てるチームのレギュラーだよな、と。お立ち台に並んだ合計39歳のフレッシュすぎる二人に、新時代の到来を感じずにはいられなかった。

三塁も流麗にこなすマルチタレント阿部寿樹

 しかしながら、勝負というのはつくづく紙一重である。たとえば8回表、ジャリエルがあと一本ヒットを許していたら、きっと9回裏の歓喜も訪れなかった事だろう。そしてあの場面、オスナの三遊間を抜かんとする嫌らしい打球が飛んだ瞬間、おそらく多くの中日ファンが肝を冷やしたに違いない。

 救ったのは阿部寿樹だ。難しいバウンドを右膝から滑り込みながら捌くと、冷静に体勢を立て直してサイドハンドで送球。本職の三塁手かと見間違うかのような流麗なプレーで、ヤクルトの猛攻をみごとに遮ってみせた。もちろん準備はしていたのだろうが、咄嗟の判断であの動きがとれる瞬発力こそがプロフェッショナルであり、なおかつ打線の3番を打ちながら内外野のユーティリティも任されるというマルチタレントぶり。

 逆にだ。阿部にできない事はあるのか? 多分それは、山寺宏一に「できない役はあるのか?」と聞くのと同じくらい不毛な問いかけだろう。ほんとに阿部ちゃん、野球に関しては文字通りの「マスター」になりつつあるわけだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter

【参考資料】

「お前には野球を長くやってもらいたい」 荒木コーチが願う土田龍空の躍動に迫る! | ドラの巻【昇竜復活へ!CBC中日ドラゴンズ情報】