ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ジャンピングスクイズ失敗を「成功」させた、中日首脳陣の頭脳と木下拓哉の技術力

○5-4阪神(20回戦:京セラドーム大阪)

 勝敗を分けた9回表の “あのプレー” を言語化するとしたら、「ジャンピングスクイズ失敗・暴投・盗塁・ホームスチール」とでも表すのが適当であろうか。なんのこっちゃ分からないが、あの一球で本当にこれ全てが起こったのは紛れもない事実だ。

 1死一、三塁。打席には最高の切り札・木下拓哉。満塁には弱いが、決してチャンスに弱いわけではない。ドラゴンズとしても、木下で決められなければ諦めがつく。そういう存在だ。

 だからこそ、この局面で大いにあり得る「スクイズ」の選択肢は、少なくとも私の中では5%程度しか想定していなかった。つい2日前に豪快な本塁打を打ったばかりの強打者に対して、スクイズはあまりにも冒険すぎるし、おそらくバッテリーも、一応念頭には置きながらも、基本的には「無い」ものとして考えていたはずだ。

 初球こそセオリー通りの高めの釣り球で様子を見つつも、2球目からは打者勝負の配球へとチェンジ。木下も1ボールから見逃し、ファウルとスクイズの素振りすら見せぬまま、運命の4球目を迎えたのだった。立浪監督が「当たらんくらい高く投げてくれたね」という皮肉の効いたコメントを残したこの一球。

 なぜ、よりによって岩崎優は数年に一度レベルの大暴投をやらかしてしまったのだろうか。たまたま指に引っ掛かってしまったのか? あるいはスクイズを察知し、咄嗟に高めに外そうとしたのが外れすぎてしまったのか? 答えを知りたくて再度リプレイ映像を確認してみた。

ラッキーではなく必然だった?

 まずキャッチャーの構えはやや外寄りの腰の高さ。中腰になる事もなく、梅野隆太郎はドシリと構えており、おそらくこの時点ではスクイズへの警戒心は無かったはずだ。まさか2ストライクから木下にスクイズは無いだろうと思うのは至極当然である。

 次に木下の動きだが、岩崎の踏み出し足が着地する間際までバットを縦に構えており、軸足が完全に「く」の字に曲がった時点でようやく寝かせていた。ちなみに昨日、セーフティスクイズを成功させた岡林勇希は、藤浪晋太郎の踏み出し足が伸びた時点では既にバットを寝かせていたので、木下の方がより投手に修正する余地を与えなかった事になる。ほんの数ミリ秒の差ではあるが、極限の緊張感の中では決して小さな差ではない。

 木下の動きを察知し、岩崎は高めに外そうとしたが、腕の動きが意識に付いていくことができず、あのような大暴投に繋がったようだ。もし寝かせるのがほんの少し速ければ、おそらく岩崎ほどの投手なら江夏豊よろしく大きく外し、中日ベンチの思惑を潰していたことだろう。

 その前に、前進守備にもかかわらず二盗を仕掛けなかった一塁走者・土田龍空の存在も気にはなっていたはずだ。4球目、土田が走る姿がサウスポーの岩崎には見えていたに違いない。なまじ見えてしまうものだから、木下のスクイズの構えを目の当たりにし、瞬時に状況を処理できなかった面もあるのかも知れない。

 つまりあの暴投はラッキーなんかではなく、土田を一塁に留めておいた中日首脳陣、そして木下の “技” が生んだ必然的なプレーだったと解釈できるのだ。

 余談だが江夏のかの有名な19球目。あれを見直すと、バッター石渡茂は今夜の木下とほぼ同じタイミングでスクイズの構えに移っている。江夏はそれを見るや咄嗟にカーブの握りを修正し、外角高めに大きく外したというのだ。極限の集中力が生んだ奇跡的なプレーとはいえ、江夏の技術力がいかに卓越していたかがよく分かる。逆に石渡はあれ以来、スクイズ失敗の選手として語られる運命を背負うわけだが、見返してみれば決してヘタではなく、江夏でなければ決まっていた可能性が高い。やはり江夏が巧すぎたと考えるべきだろう。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter