ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ドラゴンズ、始まったな〜風か魔かリューク

○2-0阪神(19回戦:京セラドーム大阪)

 岡林勇希と土田龍空。このW若竜の名を、阪神ファンは嫌でも脳髄に叩き込まれたに違いない。

 甲子園V投手同士のマッチアップとなったこの試合、最初にピンチを迎えたのは小笠原慎之介だった。4回表、無死二、三塁。「得点確率」の指標によると、この状況で得点が入る確率は80%を超えるそうだ。まして、打席には佐藤輝明である。最低でも1点は覚悟。あるいは……という場面だが、緩急を巧みに駆使する小笠原は、この窮地をなんと3者連続三振でみごとに切り抜けたのだった。

 覚醒した若きサウスポーの躍動に震えた。心の奥底から震えたのだが、そんな小笠原の更に上をいくのが今夜の藤浪晋太郎だった。「今年こそは」と言われ続けて早7年、今度ばかりはどうやら本当に復活。いや、球速といい制球といい、過去最高を更新してきたようにさえ思える。

土田龍空、「意味が分からない」ホーム生還

 両者一歩も譲らぬ投手戦。勝敗を分けたのは、岡林の技アリのスクイズだった。犠打と暴投で得たチャンス。スリーボールとなるや、これしか無いというコースにセーフティスクイズを決めた岡林の胆力たるや。打ち崩すのが難しければ小技で決める。難攻不落の投手を攻略するには最善の策を、最高の形で成功させた岡林がこの日の殊勲者なら、もう一人の殊勲者は8回表、驚くべきホームインを決めた土田龍空だ。

 1死三塁。岡林の打球は前身守備を敷くショート・山本泰寛の正面を突く内野ゴロ。三塁走者を殺すための守備網にまんまと引っ掛かったはずが、わずか数秒後にドラゴンズファンは溜め息ではなく歓喜の雄叫びを挙げることになる。キャッチャーのタッチを掻い潜るように体を捻り、右手を回り込ませて間一髪ホームベースにタッチ……と言語化するのは容易いが、リプレイで見ても、スローモーションを見ても、なぜ土田があの瞬間にあのプレーを決めることができたのか、一言でいうならば「意味が分からない」。

 土田がセンスの塊であることは、もはや議論の余地もない。それに加えて、立浪監督が「アピールし過ぎ」と頬を緩めて称賛したガッツ。そして山﨑武司氏も「大好き」と語った喜怒哀楽の激しさ。さらに、先輩に対しても臆することなく接し、誰にでも愛される天性のコミュニケーション力と、“後輩力”。日に日に上手くなっているような感じさえする守備での貢献度。さらにさらに、打力だって決して非力ではないのは、この走塁の足がかりを作った二塁打を見ても明らかだろう。

 日ごと成長するその姿はまさしく竜の希望。今夜の活躍は、土田にとって何かを掴んだ試合として今後永年にわたって語り継がれるのかもしれない。もちろんドラゴンズにとっても。何しろ、絶好調の藤浪を若い力で打ち破ったのだ。自信にもなるし、今季ベスト試合の一つといっても過言ではなかろう。

 端的に評するなら、「ドラゴンズ、始まったな」を体現した試合ということになる! とまで言い切るのは大袈裟だろうか? いや、そんな事はない。進化した小笠原の投球が冴え渡り、岡林、土田の活躍で奪ったこの勝利は、まさしく立浪ドラゴンズが目指すべき試合であった。願わくば石垣雅海に一本出ていれば……いやいや、贅沢は言うまい。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter