ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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エースの証明〜マダックスならずも……大野雄大、完封

○4-0阪神(18回戦:京セラドーム大阪)

 敗軍の将・矢野監督は試合後、この日の攻撃に関して「何もできなかった」と振り返った。何もさせなかったのは背番号22、ドラゴンズのエース・大野雄大である。

 “エース” の定義は実にあやふやだ。トランプの「A」で表示される1の札。転じて「チームの柱となる投手。主戦投手」と辞書にはある。古くは金田正一、稲尾和久などが泣く子も黙る大エースとして知られる。しかし彼らほどの確固たる存在は稀で、多くの場合はシーズンによってその称号を持つ投手はコロコロ変わるというのが実情だ。

 この点については、落合博満も自身のYouTubeチャンネルで指摘しており、曰く「今の野球界は1年良ければ、すぐエース」「5年間、立て続けに2桁以上勝たなきゃ、エースとは呼ばない」との事。

 これは確かにその通りで、試しに栄の路上で道行く人に「ドラゴンズの今のエースは?」と質問してみれば、おそらく回答は大野、高橋宏斗、柳裕也に三分される事だろう。ちなみに昨年なら二冠に輝いた柳がダントツの支持を得ていたはず。つまりエースとは、「今季最も安定感のある投手」と言い換え可能で、その証拠に最近は高橋宏斗をエースに推す声も広がりつつある。

 では大野雄大という投手は、もはやエースでは無くなってしまったのだろうか。2019年、20年には紛うことなき絶対的エースの座に君臨したサウスポーも、昨季は7勝11敗と苦戦。開幕投手を務めた今季も好不調の波が激しく、今ひとつ勝ちきれない登板が続いている。味方の貧打ゆえに余裕のある投球ができないというチーム事情はあるにせよ、4勝7敗はエースとしては寂しい数字だ。

「高橋宏斗がなんぼのもんじゃい!」という雄叫びが聞こえてきそうな力投

 チームは今季最多タイとなる借金13を抱え込み、この日はまさに今後を占う上で重要な一戦。ここで大野を立てて負けてしまえば、一気に借金20に向けて崩落しかねない……。そんな大事な試合であっさりと負けるようではいよいよ大野の立場も怪しくなるが、ところがどっこい。沢村賞をナメるなと言わんばかりの力投で阪神打線をねじ伏せると、あわやマダックス(100球未満での完封勝利)達成かとも思わせる好投で、みごとに完封勝利を飾ったのだ。

 痺れたのは7回裏、この日初めてとなる得点圏のピンチは、2死一、三塁と一打逆転の局面だった。対するは山本泰寛。カウント2-2からの5球目、インコース膝下を突くクロスファイヤーがズバッと決まり、この難局を切り抜けた。

 木下拓哉が構えたところに寸分の狂いもなく決まった渾身のインロー。今夜の奪三振は3個と控えめだが、そのうちの1個を最も欲しい時に取れるのが大野の凄さだ。9回裏、無死一、二塁とにわかに雲行きが怪しくなったところで、狙い通りにロドリゲスをゲッツーに打ち取ったのも「おみごと」の一言。

 こういう投球を見せてもらえると、やはりドラゴンズのエースは大野雄大だ! と自信を持って叫ぶことができる。通算81勝、完封は16度目。「高橋宏斗がなんぼのもんじゃい!」という雄叫びが聞こえてきそうな力投、堪能させて頂きました。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter

【参考資料】

阪神・矢野監督と一問一答 「それにしても何もできなかったという感じです」― スポニチ Sponichi Annex 野球