ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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勝負を挑みたくなる打者〜粉砕された柳裕也の意地

●0-5東京ヤクルト(14回戦:明治神宮野球場)

 またしても村 “神” 宗隆が球史に名を刻んだ。おととい阪神戦での3打席連続から引き続いて、この日は柳裕也から2打席連続アーチ。これで通算5打席連続本塁打の日本新記録樹立となった。これまで四死球を挟まない4打席連続本塁打は王貞治、R.バースをはじめ13人が記録しているが、5打席連続はMLBを含めて史上初の快挙だという。

 ドラゴンズがその当事者となったのは不運である。今夜の映像は未来永劫、村上の凄さを物語る資料として機会があるごとにプレイバックされることになるだろう。そのたびに、両手を膝についてうな垂れる背番号17の姿を我々は目にするのだ。王貞治に世界新記録の通算756号本塁打を浴びたヤクルト・鈴木康二朗のように。

 これまでも度肝を抜くスラッガーはいたが、掛け値なしに「世界の王」を引き合いに出して語られる打者がいただろうか。このままいけば、その王による日本人最多の55号はおろか、2013年にバレンティンが樹立した60号にも届こうかという驚異のハイペースである。

長所でもあり、短所でもある柳の気質

 村上の凄さに疑う余地はないし、5打席連発には脱帽するしかない。だからこそ、まさしくその “5打席目” にあたる3回裏の対決で、中日バッテリーはフルカウントから勝負にいく必要があったのだろうか?……という疑問は当然ながら湧いてくる。

 カウント2-2からの5球目がワンバウンドになった時点で、「歩かせる」という選択肢を取るのが正攻法だったのではないか。勝負するにしても、振ってくれたら儲け物というコースに四球前提で投げるのが無難だったはずだ。しかし6球目、柳の投じたチェンジアップはあまりにも素直に真ん中付近へと吸い込まれていき、村上はそれを打ち損じることなくスタンドへと運んだ。

 2点ビハインドなら反撃の余地もあるが、序盤の4点ビハインドは精神的にも重くのしかかる。絶対に打たれてはいけない一発を、みすみす打たれたと言われても仕方あるまい。

 ただ、これがプロ2,3年目のあまちゃんなら「何やっとんじゃい!」の一喝で済むが、柳は昨季の2冠投手であり、今季も奪三振のタイトルを争う一流投手である。逃げることもできた場面で、柳は敢えて村上との勝負を挑んだ。結果は見るも無惨に敗れ散ったが、柳のタイトルホルダーとしての意地も十分汲み取れる。

 その昔、巨人・上原浩治がベンチの敬遠のサインに対して悔しさのあまりマウンドで涙をこぼしたのは有名だが、おそらく投手というのは本能的に強打者と戦うことを欲する生き物なのだろう。だから星野仙一はONに果敢に立ち向かったし、藤川球児はタイロン・ウッズとの死闘に敗れた瞬間、満足げに笑みさえ浮かべたのだ。

 目の前の強打者を捻じ伏せたい、逃げたくないーーと思うのは、ある意味で投手としては健全なのかもしれない。特に柳は自分で白黒つける事へのこだわりを非常に強く持っており、その気質は立浪監督に「我々の時代の選手」と言わしめたほどだ。それが柳の長所でもあり、短所でもあるのだが……。

 

 敢えて勝負を挑んだ柳の真意にも興味があるが、それ以上に知りたいのが、村上の凄さを目の当たりにしたレビーラが今、何を感じているのか? だ。

 キューバの本塁打王は、初めて見る日本最強打者に対してどんな感情を抱いたのだろうか。自らの頭上を超え、スタンドへと消えていった本塁打の弾道は、初めてゴンが「外側の世界」の途方もない広さを意識した時のように、ワクワクと危機感をレビーラに植え付けたことだろう(『HUNTER×HUNTER』参照)。

 おそらくキューバでは敵なしだったレビーラの前に現れた、自分より1個年下のモンスターの存在は、否応なしに刺激になったはずだ。この日はいいところなく3タコに終わったが、まだレビーラの戦いは始まったばかり。いつの日か、投手たちが勝負を挑みたくなる打者に育つことを、心から願いたい。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter