ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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職人魂〜四球もぎ取った大島洋平の働き

○6-5広島(17回戦:MAZDA Zoom-Zoom スタジアム 広島)

 一進一退のシーソーゲームは、4時間を超える激闘の末にドラゴンズが制した。互いに死力を尽くした好ゲームに勝てたのは嬉しい。ただ、いま私は勝利の余韻に浸るよりも、少しの怒りを引きずりつつこの文章を打っている。

 事件が起こったのは9回裏ツーアウト。1点差に迫られ、なおも走者一、三塁という文字通りのクライマックスである。打席の坂倉将吾といえば昨季、ライデルがこの球場で劇的サヨナラ弾を喫した張本人である。その天敵を簡単に変化球で追い込むと、1球外してカウント1-2。ここでバッテリーはスプリットを選択し、キレ味鋭い縦変化に坂倉のバットが回って空振り三振。ゲームセットだ!……と中日サイドが安堵したその瞬間、広島ベンチの「ファウルではないか」という抗議に対し、なんと審判団がほんの数秒の審議を経て判定を覆してしまったのだ。

 スロー映像を見る限り、どうやら坂倉のバットを掠ったのは間違いないようだが、問題はそのボールを木下拓哉がダイレクトで捕球したのか、それともワンバウンドしてから捕球をしたのか。後者なら当然ファウルとなるが、スロー映像を拡大してもミットにギリギリ収めているように見えるし、土とほぼ同色のミットに収まったかどうかを目視で瞬時に判定するのはまず無理だ。

 ボールに付いていた土汚れを根拠にしたとしても、あの勢いでミットを地面に付ければ砂埃くらい付着するようにも思える。これが金田一少年なら、「あははは、ボールに土が付いていただけで犯人扱いか。みごとな想像力だ、金田一くん。しかし人を犯人呼ばわりするからには、確たる証拠があるんだろうねえ」と余裕をかます程度のモノでしかない。少なくとも、判定を覆すほどの確証とは言い難いのではないだろうか。

 結果的に抑えたからいいが、この判定のせいで4番打者に対して外野前進シフトを敷くという相当きわどい状況まで追い詰められたのは確かで、もし外野の頭を越すような打球を打たれていたら……今夜は眠れない夜になっていただろう。

 そもそも球審がリプレイ検証適用外の判定を安易に覆してどうするんだと。せっかくの好ゲームに水を差すような、不満を感じさせる不可解判定であった。

どんな作戦にも対応できる大島洋平の職人魂

 話を本編に移そう。敗色濃厚の8回表、それも2死から飛び出した逆転打も見事ながら、わずかな隙を逃さず二塁を陥れたビシエドの好走塁がすばらしかった。これがあったからこそ、木下の一打で両軍通じて初めての「2点差」が付き、勝利の可能性がぐぐぐっと上昇したのだった。

 ただ、すばらしいと言えばその前、大島洋平の打席も駆け引きに見応えがあり、語らずにはいられない。最初の2球はバントの構えを見せていたものの、カウント2-1となりヒッティングに切り換え。ランエンドヒットのサインが出る中で4球目は外角球に食らいついてファウル。マウンドの森浦大輔も牽制を2球挟むあたり、後藤駿太の俊足と大島のバッティングを両睨みで警戒せねばならず、相当神経を使っているのが見てとれた。本音では、さっさとバントを決めて欲しかったとさえ思っていた気もする。

 続く5球目は、上半身に当たろうかという厳しい内角攻めに対して、体を巻き付けるようにして捌き、またしてもファウル。日本広しといえども、あのコースに反応できるのは大島くらいのものだろう。結局この対戦7球すべてがボールゾーンに散らばり(うち3球がファウル)、大島は四球をもぎ取ってチャンス拡大。相手にプレッシャーのかかるシチュエーションを作ることに成功した。

 ランエンドヒットはリスクも高く、とんでもないボールを空振りして三振ゲッツーに倒れる場面も珍しくない。5球目の内角球など、大島でなければ対応は難しかったはずだ。それを涼しい顔して難なくこなし、バント失敗などで追い込まれながらも粘った末に理想的な形まで持っていくのだから、さすがは職人である。

 この日は3安打と打ちまくり、首位打者も再び射程圏内に入ってきた。そういえば右足の神経が切れて足に力が伝わらないという話もあったが……どこまで超人なのだ、この36歳は。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter