ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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プロフェッショナル〜仕事の流儀を垣間見た、祖父江大輔の1球

○3-2DeNA(12回戦:バンテリンドーム)

 小笠原慎之介はいつになく苦しんでいた。初回から明らかに制球がバラついており、ボール先行ないしスリーボールになる場面も少なくなかった。木下拓哉の盗塁刺に二度救われ、失点こそ2点で踏みとどまったが、5回投げて9被安打は本来の姿からは程遠い出来である。

 それでも踏ん張れたのは、リードしている安心感からだろう。いきなりの3ランで始まったこの試合。ビシエドの打球はいい角度で飛んでもフェンス最上部に阻まれることが多いが、この日は滞空時間の長い文句なしの本塁打だった。

 めずらしく味方が先制点を取り、それも3点も入ったのがよほど嬉しかったのだろう。ビシエドが打った瞬間、キャッチボールの手を止めて満面の笑みで万歳をする小笠原の姿が微笑ましかった。

 いつもは僅差の中で耐え忍ぶような投球ばかりの小笠原だが、今夜はリードに守られながら投げることができるのだ。幾らか気分も楽だったはずだが、こういう時に限って調子が悪いのが世の常、投手の常である。2,3回にそれぞれ1点ずつ失い、あっという間に1点差。なんて事はない、ある意味で普段通りの僅差展開に自ら持ち込んでしまったのである。

 打線も初回こそ3点を奪ったものの、その後は沈黙。5回裏の1死二塁の好機も追加点には繋がらず、なんとなく重い空気がドーム全体を覆いつつあった。そして6回表、無死から佐野恵太、ネフタリ・ソトに連打を浴びたところで遂にベンチから小笠原にタオルが投げ入れられたのだった。

フルカウントからの決め球は……

 一打同点、長打なら逆転もあり得る大ピンチである。マウンドに上がったのは祖父江大輔。一時は不安定な投球が続いて二軍での再調整を余儀なくされたものの、最近はまた安定した仕事っぷりが戻りつつある。小笠原の今季4勝目は、この百戦錬磨のベテラン右腕に託された格好だ。

 とはいえ打席に迎えるのは宮崎敏郎。この場面で最も対峙したくない打者の一人であろう。変な話、打たれるならまだマシ。最悪なのは四球で無死満塁とし、DeNA打線を活発化させてしまう事だ。そうなると一気に大量失点を喫し、小笠原の勝ち星どころか試合が壊れてしまう恐れだってある。

 まさしく戦況を左右するターニングポイントで投入された祖父江だったが、宮崎に対してボールが先行してカウント3-1としてしまう。嫌な予感に胃を痛めつつ、5球目はスライダーが決まってフルカウント。ただ、状況から考えて有利なのはまだ宮崎だ。なまじ追い込んだことで四球を嫌がる心理が働き、バッテリーは真っ向勝負を挑む可能性が高い。天才的なバッティングセンスを誇る宮崎なら、そんなバッテリーの気負いを打ち砕くことなど造作もないはずだ。

 注目の6球目、木下が構えたのは外角だった。いつも以上に鋭い眼光の祖父江が、渾身の力を込めて腕を振るう。狙い定めたかのようにスイングする宮崎。しかし白球はバットの軌道を避けるようにしてストンと落下し、地面すれすれのところで木下がキャッチ。なんとバッテリーが選択したのは、見送ればボールというスライダーだった。

 これには恐れ入った。四球のリスクを顧みず、ボールゾーンに沈む変化球を投げるのは相当な覚悟が必要となる。それも打者が思わず誘われるようなコースへと落とさなければならず、強い精神力と卓越した技術、この二つが両立して初めて成立する結果といえよう。

 並の投手なら叩きつけてしまったり、高めに浮いたところを痛打されるといった危険も伴う選択だが、さすがは修羅場を乗り越えてきただけのことはある。祖父江大輔のプロフェッショナル見たり。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter