ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

9度目の正直〜岡林勇希、今季満塁で初安打

○6-3東京ヤクルト(12回戦:バンテリンドーム)

 弱冠二十歳の若者の胸のうちは、激しく燃えたぎっていたに違いない。7回裏、岡林勇希の打席である。

 2点ビハインドで迎えたラッキーセブンの攻撃は、1死満塁から1番・大島洋平が平凡なファウルフライに倒れてツーアウト。「この回もダメか……」という空気が、空席の目立つスタンドに充満しつつあった。

 6回裏にはヒット3本で無死満塁のチャンスを得ながらも、上位打線で押し出し死球の1点しか取れず、どうしようもなく不甲斐ない打線に地団駄を踏んだものである。その時に空振り三振に倒れた一人が2番・岡林であった。“天才” の異名どおり開幕からヒットを量産し、外野の一角に定着したこの選手はドラゴンズから誕生した久々の生え抜き若手レギュラーである。

 一旦は2割台前半まで打率を落としたものの、ここにきて再浮上。特に7月は4割近く打ちまくり、打率も2割7分台まで上げてきた。低迷するチームにおいてまさしく希望の光と呼ぶに相応しい活躍を見せる岡林だが、意外にも今季まだ満塁でのヒットは出ていない。

 今季8度目の挑戦となった6回裏の満塁では凡退に倒れ、そのすぐあとに9度目が回ってきた。とはいえ局面はツーアウト。相手バッテリーも余計なことは気にせず、打者に集中できる状況だ。ここさえ踏ん張れば、残り2イニングは梅野雄吾、マクガフの盤石リレーに持ち込めるとあって、ヤクルトサイドとしてもここが勝負どころだと位置付けていた事だろう。

“戦犯” から一転、ヒーローへ

 ただ、岡林にも並々ならぬモチベーションがあった。得意の守備で痛恨とも言えるミスを犯していたからだ。4回表、1死二、三塁から浅いライナー性の打球を落球。あまりにも大きな3点目を、自らのミスで献上してしまったのだ。

 おまけに打つ方では満塁で空振り三振ときたものだ。もしこのチャンスでも凡退すれば、敗北の要因に岡林の不甲斐なさが槍玉に上がるのは避けられそうにもない。

 だからといって今まで8度ダメだったものが、9度目でうまくいく確証なんかどこにもない。ファンとしては諦め半分の神頼み。一方の岡林は、虎視眈々と狙い球を絞っていた。1ボールからの2球目、高めの真っ直ぐを待っていたかのように流し打つと、打球はレフト線を破り、無人の外野を転々。その間にランナー全員が還り、たちまち逆転に成功したのだった。

 試合後のヒーローインタビューで「なんとか取り返そうと思った」と、つぶらな瞳を輝かせながら語っていたのが印象的だった。もし取り返せていなかったら、明日の中スポ1面には天を仰ぐ岡林の姿が掲載されていたのかも知れない。

 だが、岡林は重圧を跳ね返した。つい数秒前まで “戦犯” の筆頭だった男が、たった一振りでヒーローに様変わりする痛快さ。これこそが野球の醍醐味である。

 そして、忘れてはならないのが、一塁から一気にホームを陥れた疾風のごとき髙松渡の走塁だ。もし代走を出していなければ、もしくは髙松を出し惜しみしていたら、戦況は全く違うものになっていただろう。

 同点と逆転とは大違い。結果論ではあるが、ターニングポイントを的確に嗅ぎ取った立浪監督の勝負勘が久々に冴えた采配だった。これからも髙松の使い方は、終盤の勝負どころにおいて大きな意味を持つ事になりそうだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter