ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

無死満塁〜高橋周平の一打がチームを救った

○9-2広島(12回戦:バンテリンドーム)

 久々の快勝である。それも序盤に大量リードを奪い、悠々と見ていられる試合なんていつ以来だろうか。たまにはこんな試合があってもいいし、相手が苦手の大瀬良大地というのもなお良しだ。

 開幕後最初のカードで3連勝するなど、広島相手にはこの日の勝利を含めて7勝5敗と、どういうわけか善戦している我らがドラゴンズ。しかし目立った補強のない中日に対して、広島が超弩級の補強に成功したのが先月27日のことだった。

「広島 秋山翔吾の獲得発表」

 正確には26日の深夜に駆け巡ったこの一報は、一夜明けスマホをチェックした全野球ファンの眠りまなこを一瞬にしてガン開きさせるだけの破壊力があった。おそらく広島ファンの中には「夢じゃないか」と漫画のように頬をつねった人もいるだろう。そりゃそうだ、元々がカープ出身の黒田博樹ならまだしも、特にこれまで縁のなかった秋山が西武、ソフトバンクのオファーを蹴ってセ・リーグの、それも広島を選ぶとは。

 そして、よりによってその “デビュー戦” が中日戦に当たってしまうとは……。いやが上にも注目が集まるし、秋山自身も相当な気迫で向かってくるのは必至。仮に秋山が先制打を叩き出すような展開にもなれば一気に流れは広島に傾き、打たれ弱いドラゴンズは勢いそのままに3タテを喰らいかねない。

 割と本気で「イヤだなー」と、夏だけに稲川淳二よろしく嫌な予感がしていたのだが、始まってみればあれよあれよと得点を重ね、3回終わって5点リード。心配していたような展開にならずに済み、ひとまず安堵したのだった。

竜の低迷とは、詰まるところ高橋周平の低迷なのだ

 ヒーローは4安打3打点のビシエド。ただ、ここは敢えて高橋周平の活躍に言及したい。広島の反撃に遭って1点差に詰め寄られた3回裏のことだ。連打と四球で無死満塁のチャンスを得たドラゴンズだったが、断言しよう。あの場面で最低でも1点は入ると確信していたファンなどこの世にただ一人として存在しない、と。

 もし打席に立った7番・高橋が凡退すれば、8番は満塁を大の苦手とする木下拓哉、そして9番である。高橋の結果如何では無得点という可能性も十分あり得たし、そうなれば主導権はたちまち広島が握る事になる。まさに試合の流れを左右するターニングポイントで、高橋はみごとに仕事をこなした。緩い変化球にうまく対応し、打球が一塁線を抜ける間にランナー二人が生還。貴重な2点タイムリーツーベースとなった。

 これで意気消沈した大瀬良は1死から松葉貴大にも痛打を浴びるわけだが、全ては高橋周平の一打が効いたからこそ。あれが出ると出ないのとではその後の展開も大きく変わっていただろう。

 立浪監督に「他球団なら二軍」とまで言われた打撃不振は依然として「取り返した」とは言い難いが、この一打で少しでも自信が付いたなら十分だ。兼ねてから深刻な貧打にあえぐドラゴンズの中でも、高橋は期待値との乖離が最も大きな選手といっても過言ではない。極端にいえば、竜の低迷とは詰まるところ高橋周平の低迷なのだと断言してもいいくらいだ。

 ちょうど10年前にルーキーイヤーの高橋の打撃練習を初めて見た時の衝撃は今でも忘れない。何しろフリーバッティングからして打球の質が他の選手とは全く違うのだ。「これは凄い選手を取ったぞ」と息巻いたのも束の間。有鈎骨骨折など怪我を負った高橋は年々スケールダウンの一途を辿り、今では二桁本塁打さえ夢のまた夢という、一言でいえば “微妙な選手” になってしまったのは否めない。

 もし高橋が理想通りの成長曲線を描いていれば、ドラゴンズの低迷はこれほど長くは続かなかったのではないだろうかーー。誰もが認める天才。それだけに容易には外すことができず、打線全体に与える影響も小さくないが、今日のように一打で雰囲気をガラリと変える力も持つ。

 今夜のタイムリーはよく効いた。それも無死満塁からのタイムリーは相手にとって途方もないダメージになるものだ。中日に秋山翔吾はいないが、高橋なら居る。「高橋の復活が最大の補強」というのは、あながち冗談でもないのだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter