ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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生え抜き捕手初の快挙〜悩める木下拓哉が大黒柱になる日

●1-3DeNA(9回戦:横浜スタジアム)

 木下拓哉がオールスターゲームにファン投票で選出されたという。ドラゴンズの選手が球宴ファン投票で選出されるのは2018年の松坂大輔以来。野手では2011年の井端弘和まで遡る。ちなみに捕手部門では谷繁元信、中村武志もファン投票による選出はなく、あの木俣達彦も球宴には9回選出(8回出場)されているが、すべて監督推薦による選出である。

 もしや木下は球団史上初の快挙を成し遂げたのか? と早まるなかれ。長い歴史を紐解けば “史上初” というのはそう容易く出るものではないのだ。

 1952,53年に野口明がファン投票で出場している。野口明とは「野口4兄弟」で知られる野球兄弟の長兄で、職業野球黎明期を代表する名捕手である。杉下茂との黄金バッテリーで球団初の日本一をもたらし、翌1955年には選手兼任監督にも就任している。

 ただし、愛知県出身で中京商業高卒の野口だがドラゴンズに来たのは30歳を過ぎてからの事。それまでは東京セネタース、大洋軍(西鉄軍)、阪急ブレーブスを渡り歩いてきた。したがって、木下の球宴選出が「生え抜き捕手として初のファン投票選出」であることは相違なく、その点においては明白に快挙と言えるだろう。

まだ木下にはちょっとマジメというか、神経質な面が見える

 名実ともに一流の仲間入りを果たした木下だが、実は今季ここまでの成績は「らしくない」数字が並ぶ。打率こそ2割6分前後とまずまずだが、本塁打3は二桁をマークした昨季を思えば物足りないと言わざるを得ない。また目を疑うのが2割台前半に低迷する盗塁阻止率だ。昨季は4割2分6厘と「強肩強打」を象徴する数字を残したが、今季は確かによく走られている気がする。

 昔から「盗塁の責任の大部分は投手にあり」とは言うものの、昨季と比べてさほど投手陣の顔ぶれが大きく変わったわけでもなし。虚をつく三盗はともかく、二盗を刺せなくなっているのは一体全体どういうわけか。

 この日も初回に喫した3失点は、木下の悪送球から始まったものだった。無死一塁から盗塁阻止を試みたものの、送球は大きく逸れ、その間にランナーは三塁へと進塁。この手の悪送球が今季は目立つ。昨季は2個しかなかった失策が、今季は早くもこれが5個目。本来の実力を発揮できているとは言い難い。

 休み休みの起用だった昨季までとは違い、今年は開幕から一貫して “正捕手” としての出場が続く。体力、精神両面で想像を絶する疲労とプレッシャーがのしかかり、頭では分かっていても心と体が追いつかないという状況にあるのではないだろうか。

 思えば2010年代の半ば、低迷するドラゴンズに足りないピースは正捕手の存在だと言われていたものだ。ちょうど谷繁元信が引退し、空いた正捕手の座を何人かで争っていた時期の話だ。結果的には木下が長い下積みを経てその座を射止めたわけだが、残念ながらドラゴンズの低迷はまだ続いている。

 何か一つの問題が解消したからといって、全体がルービックキューブみたいに上手く噛み合い出すとは限らないという教訓でもあるが、それでも木下の存在が他球団と比較しても数少ないドラゴンズの取り柄であることは間違いない。

 今夜は球宴出場の御礼どころか3タコに悪送球と、いいところを見せることはできなかった。先発の小笠原慎之介は6回3失点とまずまずの結果にまとめたが、援護なく6敗目。中日でなければ勝ち負けが逆になっていてもおかしくはないだけに、リードしている木下としてもツラいところだろう。

 しかし少なくとも木下には責任を感じる必要は無いと、私は思っている。ファン投票選出とは、すなわちセ・リーグ全捕手の中で最も優れた能力を有している選手だと認められたに等しく、木下はこれからも自信を持ってプレーし、自分のミスで負けた時にも「どこ吹く風」といったような太々しい態度でいるくらいが丁度いいのではないだろうか。

 歴代の名捕手と呼ばれる人達は呆れるほど図太かったと、色々なエピソードから伝わってくる。多分そのくらいじゃないと務まらないポジションなのだろうが、まだ木下にはちょっとマジメというか、神経質な面が見える。もっと太々しく、もっと図太く。木下が精神面でもドッシリとした大黒柱になる日を心待ちにしたい。

 そう、あの杉下茂に「この人にはどんなピッチングをしたらいいのかということを教わった。わたしだけではなく、ドラゴンズの若手投手にとっての先生のような人だった」と言わしめた、昔日の野口明のように。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter