ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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「流線型打線」のすすめ〜極端な思想捨て、バランス追求を。

●0-3阪神(14回戦:バンテリンドーム)

 今日はまず、70年以上前に「流線型打線」という概念を提唱した三原脩の考え方を紹介する。

《バッティング・オーダーは、各打者が各個に好打率をあげるように仕組まれるのをもって最上とはしない。むしろ、全体的な安打数はすくなくとも、得点能力の大であることが望ましい事なのである。得点能力とは、即ち流体の速度Cと同様に見做されるものである。

 そこで、流体の速度C(得点能力)を、如何に効果的に発揮させるかが流線型打線の根本的着想である》(『三原メモ』1964,新潮社より抜粋)

 従来は打者の打率に基づいて打線を組むのが定石であったが、三原は「どれだけ安打を打とうが得点に繋がらなければ意味がない」と、得点能力の効率化を求めた。

 流体力学の視点から打線を組むというインテリジェンスに満ちた発想は一般学生からの投書にヒントを得たという。三原は日本シリーズで憎き巨人を倒す事、ただそれだけを目標に何年もかけて若手を鍛え上げた。その結実こそが、日本シリーズ3連覇を成し遂げた西鉄ライオンズ黄金期の象徴「流線型打線」なのである。

 勝敗を分けるのは、安打数ではなく得点である。5安打で3点を取った阪神と、8安打しながら無得点に終わったドラゴンズ。どちらが “正義” かと言えば、圧倒的に前者ということになる。だからと言って、今すぐ流線型打線を模すべきだなんて説くつもりはない。というか、ムリだ。

 流線型打線の肝は2番に強打者を置く点にある。だが、いわゆる「2番最強打者論」とは異なり、あくまで3,4番に次ぐ位置付けなのだという。西鉄の場合、3,4番には中西太、大下弘という球史に残る大打者が並び立っていた。2番を任されたのは豊田泰光だった。高卒1年目に27本塁打を放った化け物だ。ポイントゲッター不在のドラゴンズで真似しようとしても、残念ながら「流線型」は描こうにも描けない。

 しかし、数年先を見据えて準備することはできるはずだ。岡林勇希を筆頭に、石川昂弥、鵜飼航丞、石橋康太と高いポテンシャルを秘めた楽しみな若手が増えてきているのは確かだ。少なくとも数年前のような、二軍の主軸に和田一浩や野本圭を置かざるを得ないような絶望的な戦力層ではない。

 思えばあの頃はツラかった。家の庭にタケノコが生えてくるのを待つように、若手の台頭を待ち侘びる毎日。じいさん、本当にタケノコなんか生えてくるのかい? あぁ、今に見ておれ。きっとスゴいのが生えてくるでよぉ。と眺め続けたが、タケノコはおろかペンペン草の一本さえも生えては来なかった……とまでは言わないが、そもそもタケノコに育つような野手を獲得して来なかったドラフト戦略の杜撰さにも問題があった。

 それがようやく、タケノコと呼べる逸材が頭の先っちょだけでも見せつつあるのだ。今すぐは難しくても、計画性とビジョンを持って根気強く鍛え上げれば、2,3年後には「流線型打線」を組むことだって夢ではないだろう。

いつの頃からか極端な思想に基づいてチーム編成がおこなわれるようになった

 ただし、そのためには呪いのようにつきまとうバンテリン野球を捨て去る必要がある。単打と走塁に重きを置いたコツコツ野球。嘘かまことか、現在積極的に活用されているという悪名高き「若手育成プログラム」ではこの点を追求していると言われる。本当ならばとんでもない話だ。

 確かに1998年を境にドラゴンズは従来ナゴヤ球場で展開していた「強竜打線」から、「守り勝つ野球」へと劇的な転換を図った。しかしそれは必ずしも攻撃力の放棄という訳ではなく、比重をそれまで軽視していた守備にも置くようにしただけの話。「守り勝つ野球」をより先鋭化した落合監督時代も、決して攻撃力を蔑ろにしていたわけではない。

 そして「流線型打線」の西鉄も考えは同じだった。一塁には守備名人の河野昭修を据え、豊田、仰木彬には失神するほどのノックを三原が直々に浴びせて名手に鍛え上げた。三塁の中西太も打撃面の “怪童” ぶりが有名だが、巨体に似合わぬ俊敏な守備でもファンを沸かせたと伝わっている。

 つまり重要なのはバランスで、バンテリンドームの場合はその比重をほんの少し守備に寄せる。本来そのくらいの心持ちでいいはずが、いつの頃からか「攻撃1:守備9」みたいな極端な思想に基づいてチーム編成がおこなわれるようになった。その成れの果てが今日のような結果である。

 二軍にはレビーラも控え、「流線型打線」を近い将来組めるようなメンツは揃ってきた。8安打で10点取る。そんな野球をいい加減見せて欲しいものだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) / Twitter

【参考資料】

立石泰則「魔術師-三原脩と西鉄ライオンズ」2005,小学館文庫