ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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無謀と強気は紙一重〜8人継投も、勝てば正義だ

○3-1阪神(12回戦:バンテリンドーム)

 試合開始直前の17時25分過ぎに突然発表された、「大野雄大先発回避」の一報。相手は青柳晃洋。今季3度目となるエース対決は、突如として幻に消える形となった。急遽、ドラゴンズが代役に立てたのは藤嶋健人だった。

 藤嶋のスクランブル先発といえば、思い出すのは4年前の所沢だ。松坂大輔の古巣登板として中日、西武両チームのファンが大勢つめかけるなど注目が集まっていたが、その松坂が先発を回避。開始15分前にプロ初先発を言い渡されたのが、藤嶋であった。この試合で藤嶋は6回2失点と驚きの好投をみせ、プロ初勝利をマーク。名前を売るとともに、非常事態にも動じない心臓の強さをアピールしたのだった。

 あの時の松坂も、そして大野雄大も回避の理由は同じ “背中痛”。奇妙な符号に吉兆めいたものを感じたのだが、大きく異なっていたのが監督の采配だった。2018年当時の森繁和監督は「ここが成長のチャンスだ」とばかりに責任投球回どころか6回まで引っ張ったが、立浪監督はオープナー的な役割を意識してか、無失点のまま3回限りで降板。2回表には無死二塁のピンチを凌ぐなど緊急登板とは思えぬ落ち着きを見せていただけに、どこまで行けるのか楽しみでもあったのだが、そこは藤嶋の立場も役割も当時とは随分変わっているのだから致し方なかろう。

「三ツ間事件」も頭をよぎった強気の投手起用

 さて、そうなるとリリーフ陣を総動員する展開になるわけだ。しかし、この時点でリードはわずか1点。貧打の中日打線には青柳からの追加点はさほど期待できず、必然的に綱渡りのような継投を余儀なくされる事になる。ベンチ入り投手は大野雄大を除いて8人。ひとり1イニングを任せたところで、延長12回まで進めば足りなくなってしまう。

 果たしてどうやり繰りするのか? ヘタを打つと「三ツ間事件」の投手版になるのではないか? と、勝ち負けと並行して運営面も心配しながらの鑑賞となったが、立浪監督は何しろ気迫と肝っ玉で野球界を渡り歩いてきた男である。

 4回登板の福敬登が2死を奪うや谷元圭介を、5回登板の山本拓実がランナーを背負うや根尾昂を火消しに送るという、先発投手が3イニングで降りたことを感じさせないような無謀な、いや強気の采配を振るい、みごとに5イニングを無失点で切り抜けたのだ。

 ただ、この時点で既にベンチメンバーの半数を切っており、最大12回想定での残り7イニングをジャリエル、ライデル、清水達也、森博人の4人で乗り切らなければならないという危機的状況に瀕していた。後先考えない采配と言われればその通りだろう。それでも立浪監督は、このまま逃げ切り、勝つことを前提にした起用法を選んだ。

 緻密な策略を練って動く学者肌の監督や、ましてAIなら絶対に振るわない采配である。しかし、立浪和義には “経験” がある。実働22年、2,586試合に出場し、星野仙一、落合博満という稀代の名将の姿を間近で目に焼き付けてきたという何物にも代え難い経験が。

 8回にジャリエルで同点に追いつかれた時には不安が現実のものとなり肝を冷やしたが、全てを救ったのは4番・アリエルの一発だった。「結果論だ」「延長に入っていたらどうするつもりだったのだ」という批判が上がるのも無理はない。確かにかなり無謀な作戦だし、実際にアリエルの一発が無ければ愚策の汚名は避けられなかっただろう。

 しかし、何よりも重要な事実として、ドラゴンズは勝ったのである。何手も先を読み据えた将棋のような采配の末に負けるよりも、多少無茶な采配であっても勝つ事こそが正義だと、私は思っている。もし次、似たような事をして負けたら、その時は(節度をわきまえた上で)好きなだけ叩けばいい。

 勝てば官軍、負ければ賊軍。プロである以上、所詮はそれだけの話だ。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter