ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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「二度とオレの前に来るなよ」〜成るか、三十路のサクセスストーリー

●4-6阪神(9回戦:阪神甲子園球場)

 16時の公示で思い切った選手の入れ替えが判明した。ヤクルト3連戦で2被弾の祖父江大輔、岡野祐一郎、21日に登録されたばかりだが2三振と振るわなかった石垣雅海、福田永将の4人が一挙に抹消となり、代わって好調を維持する石岡諒太、山下斐紹、リリーバーの森博人の3人が昇格となった。

 中でも意外だったのが石垣の抹消だ。ヤクルト戦では2打数2三振、昨日はまるでノー感じの3球三振と爪痕ひとつ残せなかったのは確かだが、二軍での好調を買われて故障のビシエドの穴埋め要因として上がってきたばかりの選手だ。何年も前から将来性への期待は高く、次期大砲候補の最有力と目されていた時期もあった。

 その石垣を早い段階で見限り、代わって抜擢されたのが石岡諒太である。そういや「竜のSixTONES」なんて愛称もあったが、最近めっきり聞かなくなったのは気のせいか。「のぞみトリオ」「ブルー・スリー」「3D」など、この球団は昔から定着しないニックネームを付けたがる癖がある。

 ちなみに荒木雅博、井端弘和、福留孝介が形成する「ブルー・スリー」は一部界隈では有名だが、同じ2003年シーズンにアレックス、リナレス、クルーズから成る「新ブルー・スリー」を売り出したことはあまり知られていない。

 なぜこの3人でこの愛称かと言うと、「レックス(オチョア)、マール(リナレス)、バン(クルーズ)」の頭文字を取って「ア・オ・イ」、すなわち「ブルー」という事らしい。おそらくこの日の記事を担当した中スポ・島崎勝弘記者の発案かと思われるが、よくまあ思い付くものだと感心するほかない。皮肉ではなく、素直にそう思う。

 ……これは駄弁に過ぎたようだ。話を今夜のゲームに戻す。いや、無理に戻すよりこのまま昔話に浸っていたいのが本音ではあるが、そろそろ現実を直視するとしよう。ご承知のとおり我らがドラゴンズは今夜も敗れ、収支は今季最多のマイナス9。防御率1点台前半の青柳晃洋から4点奪ったのは快挙とも言えるが、こういう日に限ってそれ以上の失点を喫してしまうのが弱いチームの性(さが)である。

 もはや試合内容については細かく触れないが、驚かされたのは試合前。スタメンを目にした瞬間、何かの間違いではと思わず二度見したのは私だけではないだろう。4番には木下拓哉。5番に山下。これだけでも相当なインパクトがあるが、3番に入ったのはなんと石岡諒太。昇格即スタメンどころか、即クリーンアップという起用は “思い切りがいい” を通り越して “珍奇” と言われても仕方がない。

 アリエルを外してまでトリッキーなスタメンを組んだのは徹底した青柳対策なわけだが、悲しいかな青柳には「左打者に弱い」というデータは特段見当たらない。昭和野球人にありがちな “左右病” だとしたら深刻だが、それよりも個人的には石岡という未知なる大器がどれだけのパフォーマンスを見せてくれるのか。荒れるSNS世論をヨソに、不満よりも石岡への期待感が勝っていたのが正直なところだ。

「二度とオレの前に来るなよ」から早5年……

 石岡の昇格は約一ヶ月ぶり。前回はそれといった見せ場もないまま、コロナ明けの石川昂弥と入れ替わりで再び降格を余儀なくされたのだった。既に30歳と年齢的には中堅の域に達しており、一打席一打席が文字通りクビを懸けた勝負といっても過言ではない。

 その立場で6打数2安打と結果を残したにもかかわらずチーム事情で降格を命じられのだから、腐ってしまってもおかしくない。しかし石岡は決して下は向かず、二軍戦では誰よりも大きな声でチームメイトを鼓舞し、自身も高打率を維持し続けて再びの昇格を掴み取った。

 2点ビハインドの3回表に岡林勇希のタイムリーで1点差に詰め寄ると、なおも2死二塁で打席には石岡。その2球目、外角に沈むシンカーを逆らわずに振った打球は三遊間をしぶとく抜け、同点のタイムリーとなった。決してクリーンヒットではないが、不屈の闘志と根性で這い上がってきた石岡らしい、渋くて泥くさい一打だ。一塁ベース上で大きく拳を振り上げて喜びを爆発させていたのも初々しくてよかった。いや、初々しいと言っても30歳なのだが。

 8回表にもやはりシンカーを捉え、いま一番セ・リーグで打つのが難しい青柳からマルチ安打を記録。試合には敗れたものの、3番抜擢の起用に応えた活躍ぶりは十分印象に残るものがあった。

 思えばキャンプで名乗りを上げ、当時の小笠原道大二軍監督から「二度とオレの前に来るなよ」と期待をもって一軍に送り出されたのがもう5年前の話。結局キャリアの9分9厘を二軍で過ごした苦労人は、今度こそ、今度こそ一軍定着を掴むことができるのか。三十路のサクセスストーリーを見守りたい。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter