ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ヒーローは遅れてやってくる〜溝脇隼人、三ツ俣大樹の殊勲打

○2x-1東京ヤクルト(9回戦:バンテリンドーム)

 5月12日以来、久々となるヤクルト戦。交流戦前までは首位ながら2位と1.0ゲーム差だったのが、今や9.0差を付けて貯金22のぶっちぎり独走状態。まだ梅雨も明けていないというのに早くもマジック点灯の声が聞こえてくるなど、その勢いは止まるところを知らない。

 交流戦から続く連勝も8に伸ばし、まさにイケイケの燕軍団を相手にどこまで食らいつく事ができるか。ドラゴンズの先発は火曜日の男・小笠原慎之介。3勝4敗と負けが先行するものの、昨季はシーズン通して5度だった7イニング以上の投球を今季はここまで4度達成。課題のスタミナ面を克服しつつあり、一皮剥けた姿をみせている。

 対する小川泰弘は地元でもあるバンテリンドームを大の得意としており、昨季は「マダックス」と称される100球未満での完封勝利を記録している。そう簡単に攻略できないのは分かっていたが、それにしても今夜のやられっぷりは想像以上のものだった。

 7回裏が終わった時点でわずか1安打。時計の針はまだ19時43分を指しており、投球数は75球。付け入る隙もなく、得点が入る気配すらないまま試合はあまりにも淡々と、1点ビハインドでラスト2イニングを迎えた。

 8回表のマウンドに上がったのも、やはり小笠原だった。小川が小川なら小笠原も小笠原だ。3回表にオスナに一発こそ許したもののそれ以外は終始危なげなく抑え、このイニングも3人で打ち取り99球。7回表には圧巻の3者連続三振もあった。

 これだけの内容で黒星が付いてしまったなら、それはもう明確に打線のせいだと言い切れる。仮に試合後「8回1失点の何がアカンのですか!」と激昂しても、誰もが即座に「アカンくないです!」と答えるしかない……って、もしかしてこのネタ、10代の若者にはちんぷんかんぷんだったりするのだろうか。

三ツ俣、意外性のバッティングでヒーローになる

 ヒーローは遅れてやってくるものだ。まずは8回裏、無死一、三塁というこの日最大にして、おそらく最後のチャンスを掴んだドラゴンズは鵜飼航丞に代えて切り札・溝脇隼人を投入。とにかく早く同点に追いつきたい局面で、三振のリスクが高い鵜飼を下げ、コンタクト能力に長ける溝脇を使ったのは合理的な判断だろう。

 溝脇はみごとにセカンドへの併殺打を放つとその間に三塁ランナーが生還。スタンドはため息と歓声が入り混じった微妙な雰囲気に包まれたが、この場面では間違いなくこの一打は正解だった。

 思い出すのは2010年。ある試合で井端弘和の併殺打の間に貴重な追加点をもぎとった事があるのだが、その時の落合監督のコメントがこれだ。

「あそこで三振か、ポップフライで次に併殺というのが最悪。ああいう野球でいいと7年間、言い続けているんだけど、なかなかできないものだ」

 たかが併殺。されど併殺。決して狙って打てるものではない併殺打を「ここぞ」の場面で打った井端……もとい溝脇の渋い働きは、きちんと評価されて然るべきである。

 とにもかくにも同点に追いつき、試合は延長戦へ。10回表2死一、二塁のピンチをジャリエルが抑えると、この日2度目のチャンスが到来した。2死満塁とし、ヤクルトはすかさず防御率0.00の田口麗斗を繰り出す。対してドラゴンズは京田陽太に代えて右の三ツ俣大樹で勝負に打って出る。

 小細工なしのガチンコ対決。しかし初球のスライダーを悠然と見送ると、2球目のど真ん中のストレートにも微動だにせず早くも追い込まれてしまう。いったい何を待っているのか。もしかしたら緊張でバットが振れないのか? 心配になるほどの地蔵スタンス。田口は今季、追い込んだ時の被打率.091(11-1)とほぼ完璧に抑えている。

 しかし三ツ俣といえば大野雄大の完全試合未遂の際のツーベースや、山本由伸から決勝打を放つなど意外性のあるバッティングが魅力でもある。1球見送ってカウント1-2から、バッテリーが選択したのは内角ストレート。田口の球威からして当ててもファウルになると読んだのだろう。そうなると、依然として投手有利のカウントから鋭いスライダーを武器にする田口を攻略するのは至難の業になる。

 三ツ俣の勝ち筋は、この4球目のストレートをフェアゾーンに飛ばす事のみ。ガツンとひと振り。変化球だったらごめんなさいと言うような開き直ったようなスイングから放たれた打球が、レフト前に弾んだ。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。自身初のサヨナラ打。

 駆け寄るナイン。ペットボトルの水を大量に浴びながら、三ツ俣は派手なガッツポーズを2度、3度と見せた。この時の表情が、もう「いい表情」と表現するしかない笑顔をしていて、見ているこちらも本当に幸せな気分になった。

 この日打点をあげた2人はどちらも代打(記録上は溝脇に打点は付かず)。鵜飼と京田というレギュラー格を代えて送り出した両者の活躍は、まさに「采配的中」である。試合前にはビシエド抹消というバッドニュースが飛び込んできた。なおさら全員で穴埋めしなければならない局面。その意味でも脇役2人の殊勲打は、チームを勢い付けるには最高の景気付けになった。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter

【参考資料】

落合監督「あの2点目」と併殺打に及第点 - 野球ニュース : nikkansports.com