●3-5巨人（12回戦：バンテリンドーム）
地鳴りのような歓声と共に小走りでマウンドに向かった背番号7。9回2死走者なしで、打席には4番・岡本和真。投手転向が報じられて以来初のマウンドに上がった根尾昂は高校時代の自己最速を上回る151キロをマークするなど全開の投球をみせ、最後は149キロのストレートでみごとに空振り三振を奪った。
22歳の若者が踏み出した “第2の人生” 。「よし、やるか」との言葉に凝縮されているように、本人の中ではとっくに踏ん切りが付いているようだ。自他共に認める “投手・根尾”。となれば、9回裏の打席では代打が送られるかと思われたが、立浪監督はそのまま根尾を打席に立たせた。さながら二刀流を思わせる起用法である。
高橋周平の2ランで2点差に追い上げ、なおも1死一塁という場面。ここで打てばドラマチックだったが、新人王へ邁進するクローザー・大勢の前にあえなく3球三振。明暗分かれた投打の結果は、投手転向の正しさを受け入れるには十分すぎるほどの説得力があった。
これからも異様な注目を集め、その都度転向に対する賛否両論が渦巻く状況は続くことだろう。かく言う私もまだ完全に投手転向を受け入れているわけではない。だが、結局は解答を示すのは根尾自身。この道を選んだ以上、雑音を消し去るにはマウンドで結果を残すしかないのだ。
岡本から三振を奪えるのは分かった。次のカードは首位・ヤクルト戦。果たして村上宗隆との対戦は実現するのか。なんのこっちゃない、“投手・根尾” もなんだかんだでロマンに満ち溢れているではないか。
「ツボ」にハマったような三好大倫のプロ初安打
明日の中日スポーツ1面は確実に根尾が飾ることになるだろう。中スポの傾向を知り尽くした私が言うのだから間違いない。
実際にこの試合、バンテリンドームが最も大きな歓声に包まれたのは根尾の登場シーンだった。さすがスーパースター。だが、注目度では劣るものの三好大倫にとっても記念すべき日になった。
プロ2年目。ルーキーイヤーの昨季はフルシーズンを二軍で過ごし、今季も出場した5試合はすべて代走と守備固め。代打に起用された前日は初球にランナーが盗塁を成功させ、1ストライクから代打の代打が出されるという珍しいパターンで「プロ初打席」を逃した。そこからの「2番・右翼」スタメン出場とは、立浪監督も随分思い切ったことをしたものだ。
とはいえ “意外” と言うほどではない。三好といえばアマチュア時代から巧打に定評があり、担当した野本圭スカウトも「左投左打らしい押し込んで打てるツボがある」と入団時にその打撃を高く評価している。
今季は開幕直後の3月27日に初昇格を果たすも、出場機会に恵まれず約2週間でリターン。しかし二軍で5試合連続複数安打の猛アピール、特に6月10日からのオリックス3連戦では初戦に同点タイムリー、2戦目に逆転タイムリー、そして3戦目に決勝の満塁本塁打と打ちまくり、「間ができてきた」という片岡二軍監督の言葉と共に晴れて再昇格を掴み取ったのだった。リーグ戦再開を控えての合流挨拶ではギラついた瞳で「満塁になったら僕に任せてください」 と言ってのけるなど、強気な性格も頼もしい。
そして迎えた6回裏、プロ3打席で遂に飛び出した初ヒットは槍のような打球でフェンスを襲うツーベース。まさに「ツボ」にハマったような一打は、今後の活躍を予感させるには十分なクリーンヒットとなった。
「『プロに入っちゃえばみんな一緒だから』って入る前に周りに言われたよ。でも違うことはすぐに分かったね。ドラフト1位は10回失敗してもおそらく11回目のチャンスがもらえる。でもドラフト5位のオレは1回失敗したら次のチャンスはないと思っていた」とは井端弘和氏の言葉だ。実体験が伴うだけに重みが違う。まして三好はドラフト6位。吹けば飛んでしまうような立場で、名を売るには結果を残し続けるしかない。
鳴り物入りのドラフト1位で入団しながら、まったく新たなスタートラインに立つ根尾昂。ドラフト6位という指名順ながらチャンスの前髪を掴んだ三好大倫。立場の違う二人だが、それぞれ大きな “はじめの一歩” を刻んだ日になった。
木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter
【参考資料】
中日6位指名・三好大倫（三本松出身）に指名挨拶。野本圭スカウト「左投左打らしい押し込んで打てるツボがある」 フォトギャラリー | 高校野球ドットコム
【中日2軍】三好大倫が決勝の満塁本塁打！5試合連続の安打、片岡2軍監督「間ができてきている」：中日スポーツ・東京中日スポーツ
