ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

戦う顔〜大野雄大、対菅野8年ぶり白星

○2-0巨人(10回戦:バンテリンドーム)

 奇しくもリーグ戦再開の初戦は、3月25日の開幕戦と同じ巨人戦。そしてマウンドに立つのは、やはりあの日と同じ大野雄大と菅野智之の両エース。違うのは球場だけ……と言いたいところだが、そうではない。

 立浪ドラゴンズの初陣に夢をふくらませながら迎えた春の日。しかし3ヶ月弱を経てチームの状況は大きく変容した。マイナス8の最下位という厳しい戦況もさる事ながら、今季の目玉だった石川昂弥は長期離脱を余儀なくされ、その師匠役の中村紀洋コーチの姿も一軍ベンチから消えて久しい。

 さらに根尾昂の投手転向という驚愕のニュースが球界を駆け巡り、ファンやOB、評論家の間では賛否が飛び交う事態になっている。もし政権支持率調査を実施したならば、この数週間で立浪政権のそれはガクンと急落したのではないだろうか。

 目下6連敗中。色んな意味で慌ただしいドラゴンズだが、結局のところフラストレーションの主要因がチーム成績にあるのは間違いない。野球監督とは勝ってこそ評価される職業だ。負けている時は何を言われても耐えるしかない難儀な商売。日本で12人しかいない「監督」の看板を背負う立浪和義は、果たして伝統あるドラゴンズをどのように導き、どこへ連れて行くのか。

 再びその戦いぶりを見届ける日々が始まった。

菅野には負けたくないのだという強固な意地と信念

 タイトルも獲った。沢村賞も獲った。五輪金メダルの一員にもなった。2019年以降の大野雄大は、プロ野球選手としてのありとあらゆる栄光を総ナメにしたといっても過言ではない。誰もが認める竜のエース。しかし大野にはどうしても勝てない相手がいる。それが今日の巨人先発・菅野智之である。

 過去の直接対決は8度。最後に勝ったのは8年前の2014年まで遡る。無双状態だった2020年夏場のマッチアップでも敗れ、万全を期して迎えたはずの今季開幕戦でもやはり白星をあげることは叶わなかった。個人の能力のみならず味方の援護あっての指標とはいえ、大野ほどの投手がここまで負け続けるのだから、いかに菅野が高く、険しい壁であるか。いやが上にも思い知らされる。

 今夜の大野は気迫がみなぎっていた。連敗ストップ。借金返済。そうしたチーム事情を鑑みて、エースとして負けられないという想いも強かったのだろう。だがそれだけではなく、もっと個人的な感情ーー菅野には負けたくないのだという強固な意地と信念が、ボールに乗り移っているかのようだった。

 手に汗握る投手戦。打線が打てないのであれば、大野はひたすらスコアボードに「0」を並べるしかない。何がなんでも先制だけは許してはならないのだ、と。

 均衡が大きく揺らいだのは8回表だった。2死から連打と四球で満塁のピンチを背負い、打席には菅野に代わって石川慎吾。打たれれば菅野に勝利投手の権利が転がり込み、一方の大野は敗色が濃厚となる。まさしくターニングポイントだ。

 緊迫した空気のなかで簡単に2球で追い込むと、大野は木下拓哉のサインに大きく4度うなずき、投じたのはアウトローへの真っ直ぐ。ボールがミットに吸い込まれ、石川のバットが空を切る。大歓声がこだまするバンテリンドーム。この日最大のピンチを凌いでも、雄叫びをあげたりガッツポーズを作ったりはせず、淡々とベンチに戻る大野の姿が印象的だった。

 試合は0-0。菅野の白星は阻止したものの、依然として膠着状態は続いている。勝ってこそ喜ぶのがエース。その裏、2死二、三塁から阿部寿樹の2点タイムリーで遂に先制点が入ると、9回に向けてキャッチボールを始めていた大野は「よっしゃ!」というような歓呼の声を一言発し、グラブを掲げて一塁ベース上の阿部を称えた。

 最終回のマウンドに立つのはライデル。もう大野の8年ぶりの “菅野撃破” を疑う者は誰もいない。期待どおり、難なく三者凡退に打ち取りゲームセット。どうしても超えられなかった高い壁を遂に打ち破り、また一つ強くなった大野の横顔が眩しく、頼もしかった。

 大野だけではない。久々に帰ってきた京田陽太の躍動。決勝タイムリーの阿部。2点目のホームを陥れた加藤翔平の喜びよう。それぞれが勝利のために必死になり、チーム一丸となったこの日の試合。まちがいなく全員が、戦う顔をしていた。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter