ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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切り札見参〜伏兵・溝脇隼人はなぜ代打に選ばれたのか

○4-2ソフトバンク (2回戦:バンテリンドーム)

「ひたすら一生懸命やっていれば、結果は後からついてくる」

 20代前半で “キング” の称号を得た後、様々な逆境にも腐らず生涯現役を貫き通すサッカー選手・三浦知良の言葉である。 “一生懸命” は誰しもにとって身近な四字熟語だが、言うは易く、行うは難し。要所では頑張れても、“ひたすら” となるとそうはいかない。どうしたって隙あらば手を抜き、ラクしようとしてしまうのが人間の業である。

 だからこそ “一生懸命” を貫ける者は尊い。そして、周囲も「あいつにはチャンスを与えてやろう」となる。今日のヒーローは、どんな場面でもがむしゃらにアピールし続けた男。その一打にファンは狂喜乱舞し、拍手喝采が贈られた。

 今季最多の3万6千人の観衆を集めたバンテリンドーム。初回にアリエルの本塁打でドラゴンズが先取したものの、先発の高橋宏斗が4,5回に1点ずつ失い、今日も追う展開に。

 開幕当初の勢いがウソのように反発力をなくした打線はこの日も凡打の山を築き、2回2死から7回1死まで一人のランナーすら出せない拙攻で淡々と試合は進んでいった。

 静まり返る大観衆。せっかくの満員御礼だってのになんちゅー試合しとんだ、と溜息と愚痴がこぼれる。全盛期ぱるるも引くレベルの塩展開。奪三振ショーで沸かせた高橋宏斗も降板し、もはや終盤に登板するであろう又吉克樹の投球を引きつった顔で眺める未来しか見えない。そんな中で、大きく試合が動いたのは7回裏だった。

 マウンドには好投の大関友久に代わって津森宥紀。今季防御率0点台、奪三振率10を超える難攻不落のリリーバーだ。しかし今日に限ってはボールが荒れていた。制球はままならず、逆球も多い。2死一塁で高橋周平が8球粘って四球を勝ち取ると、チャンスは広がって打席には三ツ俣大樹。

 しかし、ここで指揮官が動いた。「バッター、三ツ俣に代わりまして溝脇」。終盤のチャンスでの代打登場は普通なら大歓声に包まれるものだが、お世辞にもこの場面がそうだったとは言い難い。残酷だが、これが実力社会というものだ。

 結果的にはこの采配が的中し、前身守備の頭を越える逆転タイムリー三塁打を放った溝脇隼人は、45分後にお立ち台で大喝采を浴びることになる。多くのファンの手のひらを返させる、みごとな一打だった。

起用の決め手は昨日の一打か

 ただ、こうなると疑問が湧く。なぜこの場面、勝負どころの代打に伏兵・溝脇が選ばれたのか?

 ベンチメンバーには鵜飼航丞福田永将という取っておきが残っていた。右の津森に対して左の代打ありきなら、先に福留孝介を出す方が自然ではある。結果は出ていないが、あくまで切り札は福留だと立浪監督は考えている節があるからだ。あるいは根尾昂なら雰囲気を変える力を持つ。少なくとも溝脇という選択肢は、あの場面ではファンの期待を生むものではなかった。

 しかし指揮官に迷いはなかった。おそらく起用の決め手は昨日の8回裏、右の坂東湧梧から代打で放った二塁打にあったと見る。既に勝負の行方は決し、意気消沈としている中での特段印象にも残らない一打だが、チームが失いかけている “反発力” があった。

 ともすれば惰性になってもおかしくない打席で、溝脇は集中力を切らさずに自分の仕事を全うした。どんな時でも一生懸命。そういう姿勢が次のチャンスを引き寄せるのは、プロ野球のみならず一般社会でも当てはまる話だ。

 すぐに “次” は巡ってきた。しかも一打でヒーローになれる千載一遇の大チャンス。まばらな拍手に迎えられて打席に向かった溝脇だが、その先に待っていたのは最高の景色だった。プロ10年目、腐らず頑張ってきた苦労人が報われるのはいいものだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter