ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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松葉×木下~球審との化かし合いに陥らなかったバッテリー

〇3-2楽天 (3回戦:バンテリンドーム)

 またしても大物食いだ。山本由伸、田中将大に次ぐ第三の死角・岸孝之を序盤で攻略。岸の全盛期を知らない岡林勇希鵜飼航丞の1,2番コンビで幸先よく先制点を奪うと、2回裏は三ツ俣大樹が、3回裏は木下拓哉にもタイムリーが飛び出し、通算145勝の難敵を4回で引きずり降ろすことに成功した。

 大物を食ったこともそうだが、4月下旬から5月半ばにかけて球団記録の11連勝を飾るなど、9年ぶりの優勝に向けてソフトバンクと熾烈なデッドヒートを繰り広げる楽天相手に勝ち越せたのが何よりの殊勲である。昨季のチャンピオン・オリックスを破ったのに続いて2カード連続の勝ち越し。まだ借金は残るが、交流戦が開幕した際の「もしや18戦全敗するのでは」というドス黒い空気はとりあえず払拭できたと見てよさそうだ。

 それにしても、ホームランなしの3-2という一見地味なスコアながら、実に様々なトピックスが散りばめられた一戦だった。大島洋平のベンチスタートに始まり、リーグトップをひた走る岡林の今季5本目の三塁打、清水達也のイニング跨ぎ、ジャリエルの火消し、阿部寿樹の見事なバックアップ、8回を任された祖父江大輔の好投……と語るべき箇所の多い中で、この試合の決め手は初回の攻防にあったと見る。

 とりわけ松葉貴大の立ち上がり、1死二塁のピンチを切り抜けた投球が大きかった。いや、「あれが全てだった」と断じてもいいくらいだ。

コーナーの出し入れで勝負する投手にとって、球審との相性は生命線

 今夜の松葉はいつも以上に慎重に投げている印象を受けた。持ち前の制球力を生かして丁寧にコーナーを突きつつ、スローカーブを織り交ぜるなど緩急・高低を自在に操る投球術はベテランならではの一級品。昨日の上田洸太朗があれだけ苦しんだ西川遥輝を難なく3球で料理するあたりにも持ち味が出ていた。

 ところが続く小深田大地には、カウント2-2からのアウトローへのカーブが際どく外れ、さらに同じコースへのカットボールにやはり球審の手は上がらず四球を献上。コーナーぎりぎり、ストライクと判定されてもおかしくはないコースが2球続けてボールになっては、さすがの松葉も苦笑いを浮かべる他なかった(最初のカーブは低すぎた感はあるが)。

 コーナーの出し入れで勝負する投手にとって、その日の球審との相性は生命線ともいえる。無論、画一的なルールに基づいて判定する球審に “その日” などあってはならないのだが、審判も人間。環境やコンディションによってブレが生じるのはやむを得まい。

「決まった!」と思った一球がボールになってしまえば、バッテリーは再度配球を組み立てなければならない。そのうちに球数がかさみ、窮屈な投球になってしまう--というパターンを昔、山本昌の登板時にしばしば目にした記憶がある。

 だから苦笑いを見たとき、同じサウスポーの技巧派・松葉にも何となしにイヤな感じを覚えたのだ。さらに牽制で挟んだランナーを空タッチで進塁させしまう一塁手のミスも続き、得点圏のピンチ。怖い浅村栄斗を抑えて2死までこぎつけ、打席には昨日2打点の勝負強い島内宏明を迎える。

 早くも訪れたターニングポイント。伸るか反るかの大勝負。カウント1-2として5球目、松葉が投じたのは膝元への内角ストレート。これしかないというコースに決まり、球審のコールが響き渡った。あのコースに構えた木下、ミット目掛けて力強く腕を振った松葉。まさしく共同作業で大ピンチを乗り切ったわけだが、「今日の球審は辛い」という印象に惑わされず、誠実にストライクゾーンを攻める姿勢が実った形だ。

 バッテリーが対峙するべきはあくまで打者。クサいところを攻め続けるなど意固地になってもおかしくない場面で、球審との化かし合いに陥らなかった松葉と木下の冷静さが裏の速攻を呼んだのである。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter