ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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今夜、マー君投げるってよ~甲子園V投手対決は “オレたちの” 小笠原慎之介に軍配

 〇2-0楽天 (1回戦:バンテリンドーム)

「今夜、マー君投げるってよ」

 この一言で客が呼べる選手が一体どれだけいるだろうか。おそらく今のプロ野球界で、野球に興味のない人を含めて一般的な知名度がトータル的に最も高いのはやはり田中将大であろう。あの夏のハンカチ王子との激闘、野村監督との師弟関係、楽天を日本一に導いた雨中の熱投、そしてメジャーリーグでの活躍、からの日本復帰ー-。

 プロ野球の醍醐味のひとつは、一人の野球選手の生涯をファン全体、もっと言うなら国民全体で追いかけることだと私は思っているのだが、その意味ではマー君ほどストーリー性の濃い野球人はなかなか見当たらない。過去数十年を遡っても、肩を並べるのは松坂大輔と松井秀喜くらいのものだろう。

 まさしく正真正銘の国民的スター。それでいてアイドルやスマホゲームに対して異常なまでの愛情を注ぐキャッチーな一面も持つ。現代のスターは、「私、不器用なんで」的な高倉健、王貞治チックな世界観ではやっていけないのだ。無骨なルックスには似合わない現代的な感覚。ギャップ萌え。どこまでも隙のない男だ。

 その田中に対して、我らがドラゴンズはこれまで一貫して引き立て役に甘んじてきた。公式戦過去7度の対戦で土をつけたことは無く、プロ初完封をはじめ0勝4敗、防御率1.43では完敗といっても過言ではない。

 この日は実に9年ぶりとなる対戦。あの楽天フィーバーからそんなに経つのか……と遠い目になるのはオールドファンの悪い癖だが、あの頃と変わらない実力を誇る田中に対して、ドラゴンズの先発はあの頃まだ高校生だった小笠原慎之介。時を超えて実現した甲子園V投手対決は、まさにその名にふさわしい手に汗握る投手戦になった。

今日の小笠原は2点の援護で大丈夫だと思えるほど安定感、安心感があった

 2回、3回と続けて先頭打者が出塁し、先に得点圏の場面を作ったのはドラゴンズの方だった。しかし田中の代名詞でもある特殊能力 “ギアチェンジ” はさすがのもので、一打先制のチャンスはあえなく潰えたのだった。

 すると4回表に今度は小笠原が連打を浴びて無死一、二塁の難局を迎える。打席には昨季の打点王・島内宏明。シビアな対決となったが、軍配が上がったのは小笠原だった。10球に及ぶ勝負の末にスライダーを引っかけさせてゴロに打ち取り、一、三塁。続く渡邊佳明はチェンジアップでゲッツーに料理し、この日最大のピンチを無失点で切り抜けたのである。

 ちょうど一週間前は味方のエラーに泣かされる形で序盤での降板を余儀なくされた小笠原だが、イヤな流れを引きずっている様子はなし。凡打の山を築くにつれ、ノッてくる感じもあったのだろう。今日は表情もすこぶる明るく、ランニングキャッチの岡林勇希を満面の笑みで称える一コマもあった。

 その間に阿部寿樹、ビシエドにソロが飛び出してリードは2点に広がる。たかが2点、されど2点。今日の小笠原はこの2点で大丈夫だと思えるほど安定感、安心感があった。

 開幕直後にはコロナ感染での離脱というアクシデントにも見舞われたが、これで大野雄大と並ぶ3勝目となり、出遅れた分は取り戻した感がある。あのマー君を凌駕する好投をみせ、投げ勝ったのは本人にとっても自信になるだろう。

 ただ、特段驚きはない。なんたって小笠原は “世代一” の証でもある甲子園優勝投手。そしてドラゴンズが誇る “三本柱” の一角なのだから。これくらいはやって当然。しかもまだ24歳である。これから小笠原がどのような野球人生を送ることになるのか。その生涯を追いかけるのが楽しみでしかたない。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter