ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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4番弾のアリエル、大覚醒のライデル

〇2-0ヤクルト(7回戦:明治神宮野球場)

 昨夜あまりいいところの無かった岡林勇希と根尾昂に代えて先発出場したのは、渡辺勝福留孝介。はっきり言って意図の見えづらい起用ながら、限られた戦力で見栄えを変えるにはこれくらいトリッキーな手を打たざるを得ないのだろうなと。ある意味、首脳陣の苦悩が伝わってくるようなオーダーである。

 その中で特筆すべきは開幕以来4番に鎮座してきたビシエドを「6番」に降格したことだ。ビシエドが4番以外の打順を打つのは実に3年ぶり。6番以降のいわゆる下位打線を打つのは2017年4月20日以来、来日後2度目となる。多少の浮き沈みはあるものの、肝心の本塁打がわずか2本ではこうなるのも致し方なしか。

 試合前に立浪監督とミーティングした上での起用となったようだが、即決即断が持ち味の立浪采配。ついに “不動の4番” にもメスが入った格好だ。

 代わって4番に座ったのは、昨夜決勝アーチを放ったアリエル・マルティネスだ。石川昂弥、鵜飼航丞が離脱した今、本塁打の期待が持てる打者はアリエルを置いて他にいない。やや消去法的にも感じるが、パワーヒッターの少ないドラゴンズでは現状のベストチョイスであろう。

 その「新4番」のバットがいきなり火を噴いたのは2回表のことだ。この回先頭のアリエルはカウント1-1からの3球目、真ん中に入ってきた失投を渾身のフルスイング。打った瞬間それと分かる今季2号は、熱心な関東ドラ吉の待つレフトスタンド中段へと消えていった。

 アリエルの本塁打というと逆方向のイメージが強いだけに、こんな打球も打てるのかと目を見張るほどの豪快な一発だった。その弾道はまさに4番のそれ。思えばオフシーズン、新外国人の獲得見送りについて聞かれた立浪監督の「アリエルより飛ばす打者が見当たらなかった」という言葉は失笑すら買ったものだ。

 立浪監督を無条件に支持したい気持ちと、「そんなわけねえじゃん」という本音の間で揺れ動いた複雑なファン心理。ヘタな助っ人よりも飛ばすという評価にもかかわらず、オープン戦の不調が祟って開幕メンバーから漏れた時にはどうしようかと思ったが……。今夜の一発が、あの時のもやもやを吹き飛ばしてくれた。

 2年前には「外国人キャッチャー」で大きな話題を呼ぶなど紆余曲折を経た苦労人だが、ようやく本来期待していたスラッガーの片鱗を見せてくれたように感じる。2試合連続の決勝弾。アリエルがいなければ連敗もあり得た。ライバル不在の今、このまま「4番レフト」の座を掴んでしまうには絶好のチャンスである。

まるで勝負を楽しんでいるかのような笑み

 味方の落球にもめげず、岡野祐一郎が5回を投げ切った。無失点。それどころか一本の安打も許さず、絶好調の燕打線を封じ込めた。だが、立浪監督に迷いはなかった。6回表、打席が回ってくるとあえなく代打を告げられた。あらかじめ「5回まで」と決めていたのだろう。

 こうなると、プレッシャーがかかるのは後続のリリーフ陣だ。ヤクルトサイドとしては、つけ入る隙のない岡野を代えてくれたのは「ラッキー」だと感じたはずだ。6~9回に投げる4投手、そしてリードする石橋康太はさぞかし神経をすり減らしたことだろう。

 ところが今夜も「0」のバトンはあれよあれよという間に最終 “投” 者・ライデル・マルティネスまで繋がってしまった。先頭の塩見泰隆に四球を出したところで、嫌な予感がした。暴力的な投球でマウンドを支配するライデルだが、他方でランナーを背負うと露骨に落ち着きを失う脆(もろ)さも併せ持つ。特に屋外球場は苦手としており、神宮では昨年も手痛いサヨナラ負けを喫している。

 代打の宮本丈を打ち取り、1死一塁。ここから山田哲人、村上宗隆との勝負が幕を開ける。ただ、今夜のライデルはいつになく冷静だった。山田を変化球のみで3球三振で仕留めると、村上も3球で追い込んだ。続く4球目、渾身の真っすぐが村上の胸元に決まった。ゲームセットだ--。

 しかし球審の手は上がらない。やや高いと判定されたのだ。その時である、ライデルがイタズラっぽく笑みを浮かべたのである。思い通りにいかずイラ立つことはあっても、マウンド上でこうした表情を見せたのは初めてではないかと思う。

 まるで勝負を楽しんでいるかのような笑み。かつてタイロン・ウッズとの生死をかけた闘いの中で、やはり笑みを浮かべた阪神・藤川球児のように。ライデルもまた、村上との闘いを通してクローザーの本懐に目覚めたというのだろうか。

 最後はスプリットで空振り三振を奪い、いつも通り祈りのポーズを作ったライデル。ただ、私は喜びよりも怖さを感じずにはいられなかった。ここにいるのは昨日までのライデルではなく、強い打者との勝負を楽しむ生粋の野球モンスターなのだ。

 来日6年目、ライデルが大覚醒した瞬間を見た夜だった。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter

【参考資料】

長尾 隆広(スポーツ報知・中日担当) on Twitter: "立浪監督とビシエドがミーティング。… "