ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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恐怖の綱渡り〜代役捕手・石橋康太の奮闘

〇1-0ヤクルト(6回戦:明治神宮野球場)

 竜の「緊急事態宣言」である。移動日の9日に飛び込んできた「木下拓哉、石川昂弥コロナ陽性」のバッドニュースは今日になって更に拡大。平田良介、さらには鵜飼航丞と相次いで陽性者が出る事態となり、同じくクラスタが発生したオリックスとの11~12日のファーム公式戦はチーム編成困難により中止が発表された。

 ただでさえ苦しいビジターでの6連戦にあって、これだけ離脱者が続出するのはキツイなんてもんじゃない。いっそ中止にでもなれば……なんて身勝手な考えが頭をかすめたりもしながら、予定通り定刻18時にプレイボールの声がかかってしまった。

 スタメンの顔ぶれは想定内ではあるが、少し驚いたのが根尾昂のライトでの起用、そしてかなり驚いたのが石橋康太の起用だ。絶対的な正捕手である木下を欠いたことでベテランの大野奨太を緊急招集。てっきり大野がマスクを被るものだと思っていただけに、この非常時において経験値の低い石橋を抜擢したのは完全に想定外だった。

 「置きにいく」のであれば大野が妥当だが、迷ったら若手を使うという立浪監督の「育成本位」の意向がここでも発揮された格好だ。石橋には経験がない、とは言っても既に4年目である。去年までの3年間はファームで誰よりも多くマスクを被り、いよいよ一軍での経験を積む段階にきている選手だ。

 正捕手不在というこのタイミングで使わない手はなかろう。 それでも実績がモノを言うプロ野球界では、いざ使うとなると及び腰になる指揮官も少なくない。常日頃から思っているのだが、チームの世代交代を促すには選手自身の頑張りはもちろんのこと、それと同等か、それ以上に「監督の覚悟」が必要となる。

 19歳の坂本勇人を我慢して起用し続けた原辰徳然り、ルーキー立浪和義にショートのポジションを与えた星野仙一然りー-。その点でいえば “監督” 立浪も並外れた覚悟の持ち主だといえよう。石川を筆頭に、岡林勇希、鵜飼、高橋宏斗など次々と若手にチャンスを与える戦いぶりは、誰にでもできることではない。

 そして、この非常時においても変わらない肝の座りっぷり。「8番・キャッチャー石橋」は、本気でドラゴンズを改革せんとする立浪監督の覚悟が滲み出た起用だと感じた。

今夜は石橋の奮闘で勝った試合

 昨日までほとんど出場機会のなかった二番手捕手にとって、いきなり扇の要を任されたのはさぞかし荷が重かっただろう。しかも、よりによって試合は「神宮での1点死守」という股間がヒュンとするような “恐怖の綱渡り” 的な展開である。

 ビシエドがどっかで打っとりゃもっと楽に勝てたんだわ、という本音はさておき、それぞれまったくタイプの異なる4投手を完璧に操縦した石橋のリードはお見事の一言。冴えわたったのは、ピンチでの勝負球だ。

 3回裏の2死一、二塁、6回裏の2死一、三塁、8回裏の2死満塁、9回裏の2死一、二塁とことごとく「あと一本」を阻止した今夜のバッテリー。すべての場面で3アウト目を取ったのが変化球だったのは、単なる偶然ではないだろう。

 象徴的だったのが6回裏、オスナから奪った空振り三振だ。カウント1-2と追い込み、余裕もある中でバッテリーが選択したのは110キロ台のナックルカーブ。2打席目まではオスナに対してストレートしか使ってこなかった小笠原慎之介だが、ここで初めてチェンジアップよりも更に緩い変化球を解禁。タイミングを外されたオスナのバットは豪快に空を切った。

 若い捕手は一か八かとばかりに直球勝負に走りそうなものだが、石橋はしっかりと状況判断できていた。ランナーを背負ったライデルに対して真っすぐゴリ押しではなく、所々スプリットを織り交ぜたのもナイスリードだった。

 ただし中村悠平のショートフライ。あれは完全に中村のミスショットに助けられた格好であり、ロドリゲスのスライダーがすっぽ抜けた瞬間、石橋は寿命が縮まった思いをしたに違いない。まぁ、それも含めて経験か。

 とにもかくにも今夜は石橋の奮闘で勝った試合だ。送球エラーなど課題も出たが、1-0という痺れるスコアをゲームセットまでリードしきったという事実は、これ以上ない自信になるだろう。

 でも何が一番スゴイって、この試合展開で最後まで石橋に任せた立浪監督の肝っ玉たるや……やはり半端じゃない。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter