ちうにちを考える

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“5回まで男” は崩れない〜松葉貴大、驚異の安定感

〇2-1阪神(7回戦:バンテリンドーム)

 バンテリンドームに大観衆が戻って来た。2年以上にわたる “在宅慣れ” のせいか開幕当初は心配になるほど空席が目立っていたが、ここにきて徐々に回復。今季初めて前売り券が完売し、3年ぶりの満員御礼となった。

 昨夜の劇的勝利の余韻が残るなかで、何か今日は「勝つ雰囲気」が普段よりも強く感じられた。オーダーも現状のベスト布陣を敷き、あとはどうやって勝利してゴールデンウィークを気持ちよく締めくくれるか? そんな前向きな空気感に包まれながら、プレイボールの声を聞いた。

 ただ、いざ始まった試合は満員の観客を大喜びさせるというよりは、眉間に皺寄せながら「鑑賞」するにふさわしい玄人好みの展開となった。序盤のリードを死守する息詰まる投手リレー。フェスのつもりがクラシック鑑賞会だった的なノリで、試合は淡々と、黙々と進行していった。

 それにしてもリリーフ陣の盤石ぶりはライトなファンにとっても一見の価値があったはずだ。清水達也から始まり祖父江大輔、ロドリゲス、そしてライデルと4人のリレーで許した走者はただ一人。合計4イニングをたった47球で凌いだ無駄のなさと安定感は、現状敵なしといっても過言ではない。

 圧巻だったのはやはりライデル。連打を浴びる気配すらないこの男にとって、4番・佐藤輝明とのガチンコ勝負がこの日のハイライトとなった。一発出ればたちまち試合は振り出しに戻る。当然、佐藤もそれを狙っていたはずだ。カウント3-2とし、6球目。156キロ真っすぐに対し、佐藤のバットが豪快に空を切った。

 まさにプロ野球でしか見られない迫力満点の名勝負。満員の観客から最も大きな拍手が起こったのもこの瞬間だった。

“5回まで男” の本領発揮

 1点リードの死守は「薄氷を踏むような」と表現することが多いが、今日に関しては点差を感じさせないほど危なげなく凌いだ感がある。

 だが決してピンチが無かったわけではない。むしろ序盤は「よく抑えたなあ」と胸を撫で下ろす場面の連続だった。

 先発の松葉貴大は「バンテリンドーム専任」、なおかつ「5イニング限定」というまるで仕様設定したような条件付きでの起用が明言されている。これまでいろいろなタイプの投手がいたが、ここまで明確に起用法が固定されるのはめずらしい。

 どんなに調子がよくても、たとえ無失点でも5回まで。つまり松葉が投げる日は必然的に3,4人のリリーフ陣をつぎ込む事になる。いわば定時帰りが約束されているようなもので、終業チャイムと共に「じゃ、あとは任せたよ」と颯爽と帰ってしまう “5時から男” 高田純次ならぬ  “5回まで男” のようなスタイルは球界において極めて異例である。

 残業が当たり前の身としては羨ましさすら覚える反面、これだけの付帯条件がある以上は期待を裏切るわけにはいかず、何がなんでも5イニングを投げ切らなければならないというプレッシャーはある意味で他の先発投手よりも強いのではないかと思う。たとえば大野雄大や柳裕也はダメでも「来週」があるが、松葉の場合は「次のバンテリン」まで待たねばならないのだ。

 登板機会が限られる分、一回の評価がより重い意味を持つ。ここまで3登板すべて5イニング投げて自責点はわずか「1」。松葉はみごとに与えられた職務を果たしていることになる。

 2回表に1点を失い、4回表には1死二、三塁の大ピンチで打席には大山悠輔。ひとつ間違えれば即降板もあり得る局面で、ひとつも間違えないのが松葉という投手だ。1球でサードゴロに打ち取ると、続く小野寺暖は2球で追い込み4球で空振り三振に料理し、窮地を乗り切った。

 その時である。いつもクールな松葉が雄叫びをあげてガッツポーズを作ったのだ。勝負どころで最高の投球をみせると、あとは “定時” に向かってひと仕事といった風に、ラストイニングの5回裏はわずか7球で三者凡退。締めるところは締める。しっかり職務をこなし、勝利に導く仕事っぷりはさすがのものだ。

 お立ち台での「次も5回まで頑張ります!」という開き直ったような宣言には清々しさすら感じた。“5回まで男” の本領発揮で、3万6千人の観客は笑顔で球場を後にしたのだった。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter

【参考資料】

www.youtube.com