ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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オレを忘れるな!~大野雄大の歴史的快投をフイにしなかった貴重な一打

〇1x-0阪神(6回戦:バンテリンドーム)

 大記録ならず。しかし初回先頭から29人連続アウトはプロ野球史上最長記録。ある意味、完全試合よりも稀有な記録を成し遂げた今夜の大野雄大の投球は、今後長きにわたり語り継がれることになるのだろう。

 ただ、どうしても悔しさは残る。もし完全試合達成なら藤本英雄、金田正一、外木場義郎以来の4人目というノーヒットノーランとの両方達成者になれたのだから。

 惜しむらくは10回表2死から許した佐藤輝明の「初ヒット」だ。これさえ無ければ……と思う一方で、立浪監督が直接マウンドへ向かい気合を注入し、最後の力を振り絞って大山悠輔を打ち取った姿には心底感動させてもらった。

 記憶には残るが、記録には残らない完封勝利。しかしひとつ間違えれば勝利投手はおろか、試合に負ける可能性すらあったのだから恐ろしい。試合前、スタメンを目にした私は思わず我が目を疑いそうになった。というか、まちがえて二軍戦のページを開いてしまったのかと思ったほどだ。髙松渡、加藤翔平、溝脇隼人なんて名前が並んでいれば、そうなるのも無理はなかろう。

 相手先発は青柳晃洋。特に左打者を苦にしているというデータは無いが、ここ2日イヤな形で連敗していることもあり、気分転換を兼ねてガラリとオーダーを変えてみたという意図は伝わってきた。落合監督の2011年にも同じようなことがあった。

 7月3日の巨人戦、新外国人のグスマンに遂に見切りをつけたこの日、オレ流は前日無安打の荒木雅博、井端弘和を仲良く外し、大島洋平、岩崎達郎、水田圭介といった若手をズラリと並べる超奇策に打って出たのである。ちなみにアライバが同時にスタメンを外れたのは7年ぶり、また大島が1番で先発出場したのはこの日が最初らしい。

 だからどうって事ではないが、今夜のスタメンはこの時を彷彿させる斬新なものであった。案外こういうオーダーを組むと機能するんだよね、と言いたい気持ちは山々だったのだが、そうは青柳が卸してはくれなかった。大野も大野なら、青柳も青柳である。むしろ内容は青柳の方が上だったようにも思う。ドラゴンズの各打者があまりにも早打ちだったのもあるが、5回終わって49球は驚異のハイテンポだ。

 まるで我慢比べのようにスコアボードに「0」を並べる両投手。8回裏には2死一、三塁とチャンスを作りながら、大野がそのまま打席に立ったのも異様な雰囲気を際立させた。俄然ボルテージが上がりつつ、一方で別の意味でも緊張感が高まっていた。佐々木朗希のそれと決定的に異なるのは、パーフェクト以前の問題として勝つことが出来るのかが依然として不透明だったことだ。

 いくら大野が歴史的な快投を見せようとも試合に負けてしまえば元も子もない。むしろ平常時の負けよりもショックが大きい分、余計にダメージを食らってしまうだろう。延長10回表、佐藤に初ヒットこそ許したもののこの回も大野が「0」を並べた。マウンドには、やはり青柳が向かう。

今夜の ”打” のヒーローは……

 仮に11回に入ればおそらく大野は降板。となると、結果はどうあれ大野には完全試合の勲章どころか勝ちも負けも付かず、単に今日先発で投げたという無機質な事実だけが残ることになる。

 それを回避するためには、この10回裏に青柳を打つしかない。9回表から5番に入っていた三ツ俣大樹に打順が回る。ベンチにはまだ阿部寿樹、郡司裕也、福留孝介といった選手が残っていたが、この日の立浪監督は最後まで「代打」を告げることはなかった。

 試合を動かしたのは、その三ツ俣のひと振りだった。思い切りよくバットを振ると、打球はフェンス上段に直撃。いわゆる「ナゴヤじゃなければ」の当たりだが、サヨナラへの期待を高めたツーベースは殊勲打にも匹敵するほど貴重な一打になった。

 京田陽太と入れ替わる形で一軍昇格し、今季初出場の昨日は大敗の中でマルチヒットを放つなど気概を見せたプロ12年生。ショートの新レギュラー候補として根尾昂に期待する声が大きい中で、モチベーションを維持するのはそう簡単ではないはずだ。

 その中での一打は「オレを忘れるな!」という強烈なメッセージに思えてならない。サヨナラを決めた石川昂弥はお見事。されどお膳立てをし、大野の力投に報いた三ツ俣こそが、今夜の ”打” のヒーローだと私は思うのである。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter