ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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立浪監督には「見えていた」?ミラクル采配で勝率五分に戻す

○4-2広島(7回戦:バンテリンドーム)

「ホントのお金と一緒で貯金はすぐ無くなるし、借金は返すのが大変」

 去る4月12日、今季初めての貯金を作ったときに立浪監督は独特の表現で貯金の脆さ、そして借金の厄介さを語った。あれから半月。最大3あった貯金はあれよあれよと言う間に使い果たし、再び借金生活へと転落した。

「すぐ無くなる」という言葉を痛感すると同時に、何としても負債は最小限で返済しないと大変なことになる。かつて栄華を誇ったゼロ年代には想像すらできなかったが、暗闇のテン年代を経た中日ファンは借金が積み重なる怖さを身をもって体感してきた。

 借金1は、いわば自販機でジュースを買うのに小銭を借りる程度の気軽な数字かもしれない。だが、借金2になると2連勝か、2カード連続勝ち越しが返済の最低条件となる。さらに借金5ともなれば、その後のシーズンはひたすら返済に明け暮れる日々になりかねない。そんな風にどんどん膨れ上がり、気づいた時には首が回らなくなってしまうのが借金というものだ。

 立浪監督も長い現役生活の中での経験則から、冒頭のようなコメントが出たのだろう。今日の相手先発は森下暢仁。どう考えても容易く勝てる投手ではないが、五分に戻すためには何がなんでも勝たなければならない試合である。

 一方で、開幕から予想に反して好調だった打線はここにきて急ブレーキがかかり、ロースコアでの敗戦を繰り返している。こんな時は歯を食いしばり、再び鳴くのを待つ “家康戦術” を取るべきか。あるいは大胆に動かす “秀吉戦術” か。

 まさかノックアウトした投手に「もう二度と俺の前に姿を見せるな!」と声を荒げたという信長あらため “仙一戦術” は今の時代通用しないだろうが、その答えは試合開始の約40分前、スタメンオーダー発表と共に明らかになった。

立浪監督には結果が「見えていた」としか思えない

 前日の2安打完封負けを受け、立浪監督の動きは想像以上に早かった。「1番鵜飼航丞、2番岡林勇希、3番石川昂弥」という若手トリオを上位にずらりと並べた打順は、苦肉の策というよりは開き直りにも近い清々しい印象を与えてくれた。

 何よりも大島洋平に代わるトップバッターに180度タイプの違う鵜飼を据えるという起用は、固定観念に縛られない柔軟さを感じると同時に、強打者を早い打順に置くMLB式のようでもあり新鮮だった。

 状況に動じず山のごとく腰を据えるという意味の「泰然自若」を座右の銘とする指揮官は多いが、立浪監督の場合は「進取果敢」。大胆かつ積極的な采配は、スタメンだけではなく試合中にも存分に発揮された。

 5回まで無失点の松葉貴大にスパッと代打を出したのは、まさにその一例である。6回以降に突如崩れる傾向はあるものの、並の監督なら交代という決断には踏み切れないのではないか。解説席の権藤博も「最高の交代」と絶賛した決断が、直後の追加点に結びつく。まさしく会心の采配である。

 2-0とリードを保ち、あとは自慢のリリーフ陣で逃げ切るのみ。ところが8回表、無敵のジャリエルが4連打を浴びて追いつかれてしまう。予期せぬ展開に慌てたものの、8回といえば「ミラクル・エイト」。ここでも冴え渡ったのは立浪采配の妙だ。

 まず阿部寿樹、高橋周平の連打で無死一、二塁とすると、ここで立浪監督は少し時間をかけて平田良介を二塁の代走に送った。チーム1の俊足・髙松渡を既に使っていたとはいえ、昨日1番を打った平田の代走起用には驚いた。木下拓哉が犠打を決めて二、三塁。京田陽太に代えて同じ左の溝脇隼人というカードの切り方も斬新だ。さらに広島がサウスポーの塹江敦哉にスイッチすると、なんと代打の代打でアリエルの登場である。

 そして1死満塁となり、打席には加藤翔平。あらかじめ福留孝介は次のロドリゲスのところで使うと決めていたはずだから、この加藤に代打を送る想定はそもそもしていなかったことになる。チーム随一の打力を持つ木下にバントをさせ、京田を見切った立浪監督が、なぜ加藤には全幅の信頼を寄せたのか。その加藤が決勝打を打つのだから、なおさら恐ろしくなる。

 9回制の昨季ならともかく、延長12回を見据えるとなかなかここまで大胆な起用はできないものだ。立浪監督には結果が「見えていた」としか思えない。とはいえ、さすがの立浪にも予知能力があるわけではない。必ずここで決めるという強烈な決意と、勝負どころを嗅ぎ分ける立浪一流の勝負勘。それがまるで予知能力のような采配的中を生み出したのだろう。

 スタメンに始まり、松葉交代、そしてミラクル・エイトの強気采配。とにかく最初から最後まで立浪監督に驚かされっぱなし、感心しきりのナイスゲームだった。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter