ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

135球完投~最後まで投げ抜いた柳裕也にグッと来た

〇4-1阪神(3回戦:バンテリンドーム)

「どの試合が一番嫌だったかって言われたら、俺は横浜とやるゲームが一番嫌だった。落とせないから」

 11年前の冬、落合博満は監督退任後に出演したテレビ番組のインタビューにこう答えている。当時の横浜といえば暗黒時代の真っただ中であり、失礼を承知の上で言えば “勝って当たり前” の格下の相手。だが戦いの当事者からすれば、そういう相手こそが最もプレッシャーがかかって「嫌だった」のだという。

 時は流れて令和4年。阪神が文字通りの歴史的な惨状に陥っている。勝率.067はプロ野球が始まって以来のワースト記録更新なのだという。従来のワースト記録保持球団は、伝説の弱小球団「トンボ」と所沢移転初年度の西武。どちらも寄せ集め同然のチームという弱いなりの事情があったのに対し、昨季僅差で優勝を逃した阪神が一気に記録を抜き去ってしまったのは、どう考えても異常である。

 弱い弱いと噂には聞きながら、満を持して迎えたこの3連戦。初戦は得意の「ミラクル・エイト」で逆転勝ちを収め、2戦目は投手陣の踏ん張りと大島洋平の勝負強さに救われた。こうなると是が非でもスイープを狙いたいところ。ここでドラゴンズの先発は柳裕也。相手がルーキーの桐敷拓馬というマッチアップ的にも、今夜はほとんど勝利が約束されたような一戦だったと思う。

 ただ、だからこそ怖さもあった。勝って当たり前とは言っても、プロ野球は最下位球団とておおよそ3割は勝てるスポーツなのだ。勢いからして明らかにドラゴンズが有利だが、足元をすくわれる恐れも十分ある。

 嫌な予感は、スターティングオーダーを目にした瞬間にもよぎった。「2番・佐藤輝明」。貧打に悩む阪神が、ダイナミックに打順を動かしてきた。どうせ繋がらないなら、一発の可能性のある打者に多くの打席を与えようという意図だろうか。もし初回に思惑通り佐藤が一発を放てば、たちまち眠れる猛虎が目覚めるかもしれない……。

 といった風に、考え出せば不安は尽きないものだが、プレイボールから20分後にはそうした不安はキレイさっぱり霧散していた。柳が三者凡退で難なく立ち上がると、その裏に阿部寿樹のタイムリーですぐさま2点を先制。あとはもう、柳の投球に酔いしれるだけだ。

最後まで投げる柳の姿にグッと来るのは、私が古い思考の持ち主だからだろうか

 8回裏、柳がバットを手に打席に向かうと、スタンドからどよめきと共に拍手が起こった。この時点で4点差。柳の投球数も120球を超えており、現代野球なら継投がセオリーという場面だ。しかし、立浪監督の考え方は違った。柳の投げる日は、リリーフ陣を休ませる日。「サンデー柳」こそローテの再編成でズレてしまったが、曜日がどうあれこの考え方に変化はないようだ。

 完封を狙いに行った9回だが、結果的に柳は失点を喫することになる。佐藤、近本光司に連打を食らい、大山悠輔には犠飛を許した。わずか9球の出来事である。さすがにスタミナも限界を迎えていたのだろう。

 しかし、ここでまた驚かされることになる。てっきり投手交代かと思いきや、首脳陣の判断は「続投」。おそらく同点に追いつかれでもしない限りは、代える気などさらさら無かったに違いない。続く代打・豊田寛を1-4-3のダブルプレーに打ち取ってゲームセット。その瞬間、柳の表情には充実感の滲んだ笑顔が広がっていた。

 海の向こうではドジャースのカーショウが7回80球パーフェクトながらマウンドを降りたという。目先の大記録よりも、選手生命を最優先する時代。どちらが正しいというわけではないが、どちらかといえば最後まで投げる柳の姿にグッと来るのは、私が古い思考の持ち主だからだろうか。

 勝って当たり前の試合を預かり、最後まで投げ抜いた「135球完投」。近年ではめずらしくなった表記にエースの誇りを見た気がした。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter