ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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9人目の野手~0点リレーの影に卓越したフィールディングあり

〇1x-0阪神(2回戦:バンテリンドーム)

「緊急登板」というのは得てして予想外の結果をもたらすものである。ドラゴンズでいえば松坂大輔の代役で登板した2018年の藤嶋健人であったり、2014年に腰痛の川上憲伸の代役でプロ初登板初完封を成し遂げた濱田達郎が思い出される。

 手元に詳しいデータが無いので推測に過ぎないが、まるで急な休日出勤を命じられたサラリーマンがかえって変なテンションでいい仕事ができるのと同じように、緊急登板を命じられた先発投手もダメ元で臨める分、期待をうわまわる結果を残すことが多いように感じる。

 というわけで今夜の阪神の先発は、コロナ感染の伊藤将司の代役・小川一平。今季は開幕2戦目で先発したプロ3年目の期待株だが、2敗、防御率6.11とここまで結果は伴っていない。ドラゴンズサイドとすれば、形はどうあれ昨季2敗を喫した苦手の伊藤と対戦しなくていいわけだから、勝機はグッと高まったはずだ。

 だが、野球とは面白いもので、試合は互いに無得点のまま粛々と進むことになる。あるいは開き直りがいい方向に作用したのか、小川が初回のピンチを凌いで以降は危なげなく好調ドラゴンズ打線を封じ込んでいく。5回裏、2死二塁としたところでマウンドを譲ったが、何しろ試合開始の数時間前までは登板予定がなかった投手である。三塁側スタンドの一部からは惜しみない拍手が注がれ、ベンチではまるで勝ち投手のようにナインがタッチで出迎える。

 一方で、打ちあぐねたドラゴンズとしてはせっかくの “天敵回避” を生かせなかった格好だ。先にブルペンの持久戦に持ち込んだのは阪神だったが、この時点で劣勢に立たされたのは、どちらかといえば緊急登板の投手を崩せなかったドラゴンズの方だったように思う。

 ここから先は1点勝負。どちらが先に先取点を奪うのか。そしてその1点が、おそらくは決勝点となるー-。そんな張り詰めたムードの中で、ひたすら踏ん張ったのが背番号41、勝野だった。

投球術だけで「0」を並べたわけではない

 お立ち台には通常、勝ち星の付かなかった先発投手は呼ばれないものだが、今夜に限っては勝野が “ヒーロー” であることは、誰の目にも明らかだった。慣例を打ち破ってお立ち台に挙げた関係者には「いいね!」を差し上げたい。

 今夜の勝野は苦手の立ち上がりを「0」で抑えると、そこから先はエース級の快投を見せてくれた。左打者には内をうまく使い、右打者には外角への出し入れでカウントを構築。昨年4月28日から14登板連続で白星から見放されているとは思えないような投球で、阪神打線を黙々とねじ伏せた。

 ただ、投球術だけで「0」を並べたわけではないことは強調しておきたい。見事だったのが7回表。先頭の3番・糸井嘉男との対戦シーンだ。1点勝負ということで、クリーンアップが並ぶこの回はできるだけサクサクと終わらせたいところ。カウント2-2とし、この日投じた90球目、落ち切らなかったフォークに糸井のバットが目ざとく反応した。鋭い打球が勝野の左横を抜けていく……かに思われたが、間一髪グラブで弾き、投手ゴロに仕留めたのである。

 もし抜けていれば無死一塁として4番・佐藤輝明を迎える局面だったから、捕ると捕らないのとでは大違いだ。今季はプロ初本塁打をかっ飛ばすなど「9人目の野手」として躍動している勝野だが、この日だけで投手ゴロが3つ。ビシエドの好捕をアシストするナイスプレーもあった。卓越したフィールディングもまた自らの投球を楽にできている要因といえよう。

 投げるだけではなく、打って、送って、守ってという4拍子揃った投手こそが「勝てる投手」というもの。なかなか運にも恵まれず白星からは遠ざかっているが、この調子なら間もなく面白いように勝利が付いてくるはずだ。

 さて、今夜の勝ち投手は延長10回表を3人で切り抜けた清水達也に付いた。早くも3勝目だというから驚きだ。この清水も、糸原健斗のピッチャー返しをグラブで弾き、うまく処理するプレーがあった。とにかく1点が重かった今日のような試合では、こうした細かいプレーが生命線となり、また命取りにもなる。

 試合後、立浪監督は「うちの投手陣は12球団一」(意訳)と胸を張っていたが、その安定感の秘訣は必ずしもボールの力だけではなく、細部に至る丁寧さにもあるのだろう。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter