ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

待望のプロ初本塁打は決勝弾!石川昂弥と村上宗隆が交差した夜

〇7-6東京ヤクルト(1回戦:明治神宮野球場)

 その時、時計は午後8時39分をさしていた。漆黒の空を舞う白球は、レフトスタンドに詰めかけた中日ファンの大歓声に吸い寄せられるように、観衆の中へと飛び込んでいった。打った本人は平静を装ってか、表情をかえずにダイアモンドを小走りに一周する。だが三塁ベースを回ったところで大西コーチと目が合うと、抑えていた感情があふれ出し、そのまま満面の笑みでホームイン。

 ベンチも祝祭ムードに沸き立つ。ナイン総出でプロ初ホームランを打った若き大砲を出迎えると、最後尾で待っていた石垣雅海、そしてビシエドと感極まったように強く、熱く抱擁を交わした。

 ファンも、ナインも、首脳陣も、みんなが待っていた。開幕から10試合目、35打席目にして遂に出た待望の一発。だがもしかしたら、一番心待ちにしていたのは他でもない石川昂弥本人だったのかもしれない。

 入団3年目の今シーズンは、オープン戦からチームで唯一のフル出場を果たし、開幕後も当たり前のように「7番・サード」でのスタメン出場が続いている。ただし結果が付いてきているかと言えばそうではなく、打率は1割台を低迷し、本塁打はおろか長打すら出ないまま今夜の10試合目を迎えた。

 そろそろスタメンを外れるか、あるいは二軍降格もあり得るのではないか?--そんな外野の声を一蹴するかのように、立浪監督は「100打席、200打席打てなくても使い続けます」(CBC『サンデードラゴンズ』)とあらためて明言。今シーズンの方針でもある「若手起用」をそう簡単には曲げない覚悟を示した。

 そうはいっても最優先すべきは勝利であり、実績のない若手を起用し続けることは、ややもすれば「聖域」や「ひいき」といった反感を買いかねない。極端にいえばチーム瓦解のリスクをはらんだ方針でもある。今日も3打席目までは二度の得点圏で凡退に終わるなど、開幕から猛アピールの続く同期の岡林勇希とは対照的に、石川の立場は日を追うごとに、打席を追うごとに厳しいものとなっていた。

球界を背負って立つスラッガーと、同等の存在になり得る若武者が、初めて “逆の立場” で交差した瞬間

 試合は “花火大会” と形容される、いかにも神宮らしい壮絶な打ち合いとなった。圧巻だったのは山田哲人、村上宗隆の球界が誇る脅威のダブル砲だ。特に村上は、趨勢が決まりつつあった7回裏に再び試合を振り出しに戻す3ランを叩きこみ、スケールの違いをまざまざと見せつけた。これぞ4番。まさしく4番。今の村上には、かつて落合博満や松井秀喜、タイロン・ウッズに感じたのと同じ “別次元の風格” が漂っている。

 悔しさよりも先に、唖然としてしまうほどのパワーと、勝負強さ。そして、たった一振りで雰囲気を180度変えてしまうオーラに、球場全体が圧倒されていた。そんな中にあって、石川はメラメラと闘志をたぎらせながら「やり返そう」と決意を固めていた。これ以上ない見本であり、目標となり得る日本最強クラスのスラッガー。その選手に対して「やり返そう」という大それた野心を抱けるあたり、やはりこの男もただ者ではない。

 マウンドには昨季プロ野球新記録のシーズン50ホールドを挙げた清水昇が登場。この難敵を前に、石川は臆することなく白木のバットを振りぬいた。カウント1-0からの2球目。打った瞬間、投手がガックリと崩れ落ちるのほどの会心の当たりだった。

 まるで酔いしれるように悠々とベースを回る途中、三塁からその背中を見つめた村上は、果たして何を思ったのだろうか。球界を背負って立つスラッガーと、同等の存在になり得る若武者が、初めて “逆の立場” で交差した瞬間。プロ野球の新しい時代の幕開けを感じ、身震いしてしまったのは私だけだろうか。

 素晴らしい決勝弾となったプロ初本塁打。ただ、強いて注文をつけるなら満塁で迎えた5打席目。ここでも打点を挙げてほしかった。きっと村上なら、いとも簡単に犠牲フライくらいは打っていただろう。

 ともあれ今夜は大きな、大きな「第一歩」を祝したい。おめでとう!

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter