ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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完封!柳裕也を勇気づけた指揮官の暗示

〇1-0広島(3回戦:バンテリンドーム)

 わずか一週間前に東京ドームの真ん中で呆然と立ちすくんでいた男が、今日はゲームセットまでマウンドに仁王立ち。「やられたらやり返す」という立浪監督の所信を実践するような柳裕也のみごとな完封劇で、政権初のスイープ勝ちを飾った。

 決して楽な展開ではなかった。劇的なサヨナラ勝ちから一夜明け、試合前から勝利を半ば確信していたのは私だけではなかろう。相手先発は1戦目の大瀬良大地、2戦目の森下暢仁と比べれば格の落ちる遠藤淳志。対するこちらは昨季二冠の柳だから、マッチアップ的には優位とみて間違いない。また昨日の勢いが余熱のように残っていることからも、序盤から一方的な試合運びになるのではないか。そんな淡い期待を抱きつつ、14時のプレイボールを迎えたのだった。

 だが、広島にも意地がある。ましてや球団タイ記録の開幕6連勝で乗り込んできたチームである。そう易々とは3タテを喫すまいとする執念の前にドラゴンズ打線は沈黙。チャンスらしいチャンスを作れぬままお互いスコアレスで中盤を迎え、気づけば試合は「柳vs.遠藤」の投手戦の様相を帯び始めていた。

十人十色の投球術

 試合が動いたのは6回裏だった。2死からビシエドが二日連続となるフェンス直撃の「惜しぃぃ!」としか言いようのない二塁打で出塁。もはやバンテリンドームのフェン直は、味噌カツ、手羽先とならぶナゴヤ名物である。あらためてこの条件を承服して残留を選んでくれたビシエド兄貴には頭が下がる思いだ。

 なんて戯言をホザいている間に阿部寿樹のレフトへのタイムリーが飛び出して、遂に均衡が破れた。さあ、あとは柳がどこまでスコアボードに「0」を並べられるかだ。終盤を迎えても、危なげなく凡打の山を築いていく。序盤から要所で使っていたカーブの陰影が、各打者のタイミングを狂わせる。まるで良質な映画の伏線回収のような投球術は、これだけでお金を取れるほど美しい。

 160キロを優に超える超速ストレートで打者をねじ伏せる佐々木朗希が球界の華なら、緩急で翻弄する柳もまた違った色彩の華であろう。わずか140グラムそこそこの同じ硬式球を使いながら、その操り方は十人十色。「野球の奥深さ」という深淵なテーマに思いを馳せつつ、試合は1-0のまま最終回を迎えた。

「必ずゲッツー取れるから」

 だが、ここで柳はこの日初めて得点圏に走者を背負うことになる。そればかりが1死一、二塁。一打同点、ヘタすりゃ逆転のピンチで打席には4番マクブルーム。この日2三振とはいえ、ひとつ間違えれば白球をスタンドへと持っていけるパワーは侮れない。最後の最後におとずれたクライマックス。柳の表情にもおのずと緊張感が広がる。

 そんな背番号17の強張りを見抜いたように、マウンドに向かったのは落合英二コーチ……ではなく、現場を預かる最高責任者・立浪監督その人だった。今季初めて指揮官みずから足を運んだのは、それだけこの場面を「重要」だと判断したからであり、また柳なら言葉ひとつで立ち直るという確信があっての行動だったはずだ。かけた言葉は「必ずゲッツー取れるから」だったとか。一種の暗示をかけた後、この日133球目を思惑通りに5-4-3の併殺網にかけてゲームセット。

 柳の投球術もさることながら、立浪監督の操る催眠術のような囁きもすさまじい。勝負どころを知り尽くすエースと、監督の “術式” によって掴んだ勝利。「サンデー柳」でリリーフ陣の負担を軽減するという思惑もハマった、まさに会心の3タテであった。

 今後も「ここぞ」で立浪監督がマウンドに向かうことはあるのかどうか。また一つ、今シーズンの見どころが増えた。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter

【参考資料】

【中日】柳裕也が両リーグ1番乗りで完封勝利 立浪監督は自らマウンドで「ゲッツー取れる」と暗示かける : スポーツ報知