ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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これぞミラクル!3時間58分、「終わりよければすべて良し」を呼んだ大島洋平の三塁打

○4x-3広島(2回戦:バンテリンドーム)

「野球は最後までどうなるか分からない」。だからゲームセットの瞬間まで諦めずに応援しようぜ! と言われても、大半のドラゴンズファンにとってそんな格言は取るに足らない“たわ言” でしかない。ただし、逆の立場ならいくらだって味わってきた。

 ここ数年、「最終回の大逆転サヨナラ劇」は、手の届かない雲のような存在として竜の頭上はるか遠くに漂い続けてきた。「あと一本」まで迫ることはあっても、最後はため息と共にゲームセットの声を聞く。それが弱い中日の日常だった。

 だからこそ、何年かに一度だけ実現する夢のような逆転劇は、まるで古い集落の口頭伝承のようにその後ずっと「伝説」として語り継がれていく。最後にドラゴンズがこれを決めたのは2020年10月15日、高橋周平のサヨナラ3ランである。

 あれから早1年半。そろそろ歓喜の輪を見たいところだが、マウンドに君臨するのは日本代表クローザー・栗林良吏だ。昨季は黒星を付けるどころか1点さえも奪うことができず、13.1イニングで2安打22三振と笑えるレベルで抑え込まれた難敵中の難敵。パワプロのシナリオモードでいえば難易度「5」だ。

 今日も先頭の石垣雅海が1球で打ち取られ、残すは2アウト。しかも打順的に本塁打の見込みは低く、連打で栗林を攻略しなければならないという超ハードモードの状況である。

 打席に立つのは溝脇隼人。まさかここから奇跡のドラマが始まろうとは、一体どれだけの人が予感することができただろうか。

3時間58分の激闘は、もし負けていたら色々な面でキツイ想いを残してしまうところだった

 決められる場面はいくらでもあった。9回以降は毎回サヨナラのチャンスを得たが、どうしても「あと一本」にフラれ続けた。むしろこれだけのチャンスをことごとく逸する方が難しい気さえする。貧打の中日らしい拙攻だ。

 それでも負け試合にならなかったのは、7回以降を繋いだリリーフ陣を讃えるべきだろう。何しろ7回清水達也から10回田島慎二までエラーを除いてパーフェクトリリーフ。5イニングぶりに安打を許した藤嶋健人も、すぐさまゲッツーで切り抜けた。リリーフエースと目された岩嵜翔の離脱ショックを感じさせない継投は頼もしかったし、素直に感動した。

 ところが12回表である。あと3アウトで負けは無くなるという段に来て、7人目の山本拓実が先頭四球を許してしまう。スイッチした福敬登が今度は野選でピンチを広げると、1死二、三塁として坂倉将吾の犠飛で走者生還。お互い本塁が遠い中で、遂にスコアボードに「1」が灯った。広島サイドからすれば待望の、中日サイドにとっては痛恨の1点。これですっかり諦めモードになってしまうのは12球団見渡しても中日ファンくらいのものだろう。

「野球は最後までどうなるか分からない」? こんな格言にすがったところで現実がそう甘くないのはイヤというほど思い知らされてきた。表情を変えずベンチ最前列で戦況を見守る立浪監督。1死から溝脇が粘って出塁しても、まだ何かが起こる予感を抱くには至らない。

 ただ、ここで迎えたのは1番大島洋平。既に猛打賞を記録し、6回裏には起死回生の同点弾を放っている、いわば今日一番ノッている選手だ。壁を崩すとしたら、この男しかいないー-。その2球目だった。外低めの真っ直ぐを捉えた打球は、あらかじめ浅めに守っていた右中間を低空飛行で深々と突破。一塁走者は悠々と同点のホームを踏み、打った大島も三塁に到達した。

 昨年あれだけ苦しめられた栗林から、あっという間の同点劇。直後にきっちりサヨナラで決めた岡林勇希の天才っぷりも凄いが、やはり今日の立役者は大島だろう。3時間58分の激闘は、もし負けていたら色々な面でキツイ想いを残してしまうところだった。

 9,10回裏のサヨナラ機を生かせなかった平田良介、岡林、鵜飼航丞には後味の悪さが残り、山本と福にはどんよりした責任感が圧し掛かっていたことだろう。また9回裏の大飛球が惜しくもスタンドインとはならなかったビシエドの打球に対して、ファンは「あれが入ってさえいれば……」「にっくきバンテリンドーム!」という本拠地球場への憎悪を抱きつつ、土曜の夜を過ごすハメになっていたかもしれない。何よりも、これだけの数の投手を投入して負けるのはダメージが大きすぎる。

 そうした意味で、大島の一打はたくさんの人たちを絶望の淵から救ってくれた。まさに「終わりよければすべて良し」の大団円。にしても、まさか一週間に二度もこんな劇的な逆転勝ちが拝めるとは、今年は諦めずに最後まで応援してみてもいいかもしれない。ミラクル・ドラゴンズが勢いづいてきた。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter