○2-1広島(1回戦:バンテリンドーム)
1988年、ミラクル星野ドラゴンズの合言葉は「8回裏の大逆転」だった。どんな劣勢でも必ず追いつき、追い越すという執念。立浪ドラゴンズが、かつてのチームを彷彿させるような逆転劇でホーム初勝利を飾った。
今日もダメか--。1点リードで迎えた4回表に “魔” は潜んでいた。1死一、二塁から坂倉将吾の力ない打球が大野雄大のグラブに収まった。おあえつらえ向きのゲッツーコース。誰もがこぶしを握りかけた、その時だった。大野の二塁送球がわずかに逸れ、たちまち満塁の大ピンチを迎えたのである。
流れの悪い時というのは、何をやってもとことんうまく行かないものだ。続く會澤誠に痛恨のタイムリーを食らい、ドラゴンズは一転して追いかける立場となった。しかも相手は一週間前に開幕勝利を挙げたエース大瀬良大地である。たとえ1点差だとしても、簡単に得点は許してくれない難敵中の難敵。その予感どおり、チャンスは作りながらも「あと一本」に泣くいつものパターンで淡々と試合は進み、気づけば8回を迎えていた。
9回のマウンドに立つのが大瀬良以上に難攻不落の栗林良吏であることを考えると、反撃の余地があるのはこのイニングが最後。限りなく崖っぷちに立たされた状況で、突如として強竜の遺伝子が目覚めたかのように、打線が繋がり出した。大島洋平、岡林勇希の連打でチャンスを作ると、3番鵜飼航丞は追い込まれながらも高めに浮いた真っすぐを逆方向に弾き返し、これが貴重な同点打となった。打った瞬間、ベンチに向かってガッツポーズを作りながら走り出す鵜飼の姿に “竜の未来” を感じたのは私だけではあるまい。
ビシエド凡退のあと、トドメを刺したのは先制弾を放っている阿部寿樹だ。カウント2-1からの内角真っすぐをしぶとくセンター前に落とす、阿部らしい職人技で逆転に成功。相好を崩して両手を叩くエース大野をはじめ、ベンチが一丸となっての攻撃はまさしく “ミラクル” と呼ぶにふさわしい会心の逆転劇だった。
怒りをあらわにした主砲ビシエド
全員野球でつかみ取った今季2勝目。その中にあって一人、怒りをあらわにしたのが4番ビシエドだった。
6回裏2死一、三塁に続いて、この回も1死一、二塁で凡退とチャンスを二度生かせなかった主砲は、ベンチに戻るとバッティンググローブ、さらにはヘルメットを床に叩きつけて激昂。普段は温厚だからこそ、よほど思うところがあったのだろう。続く阿部が決勝打を打ったからよかったが、もし同点どまり、のみならず試合に敗れていたら、間違いなく「戦犯」としてビシエドは槍玉に挙がっていたはずだ。
プレッシャーのかからない場面ではコツコツとヒットを積み重ねるが、ここぞの場面では湿ってしまう4番のバット。どれだけナイスガイであろうと、3年総額11億円という破格の大型契約を結んだ助っ人である以上は、バットで結果を示さなければならない立場だ。
オカルトといわれる得点圏打率を敢えて持ち出すなら、今季のビシエドのそれは未だに「0」が3つ、キレイに並んでいる。今日の2打席を含めて9の0(2四死球)では、チームが得点力不足に苦しむのもムリはない。ただ、この状況をビシエド自身が心底悔しがっている。それが分かっただけでも安心した。これでふて腐れるようならいよいよビシエドもおしまいだが、あれだけの悔しさを持てるならまだ大丈夫だ。
「エースと4番」の重要性は、落合博満や野村克也をはじめ多くの名将たちが共通して語っている。粘りの投球で今季初白星を飾ったエース大野は、お立ち台で声高々に「働きまくります!」と豪語してみせた。さあ、次は4番の番だ。そろそろ働いてくれよ、エルタンケ。