ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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劇勝を呼んだ阿部寿樹の“目”とオールラウンダーっぷり

○7-5巨人(3回戦:東京ドーム)

 4時間超の熱戦の末にヒーローになったのは、坂本勇人でも赤星優志でもなく溝脇隼人だった。この展開を予期できた者がどれだけいるだろうか。Twitter界隈にはびこる胡散臭い自称・預言者どもは、数打ちゃ当たる地震予想なんかせこせこしている暇があるなら、こっちを的中させてみろよと思う。

「きょう中日勝つよ」。序盤の段階でこの預言を出せたなら否応なく “ホンモノ” だと信じるのに、なぜか預言者という人達は世界規模の陰謀は暴けても野球の結果は分からないようで。じゃあ私はといえば、言うまでもなく初回の時点で負けを確信したクチである。

 そりゃそうだろ、開幕連敗の悪い流れを断ち切るとしたら柳裕也の好投しか無いという状況で、あろうことか初回4失点。それもスター坂本に先制打を許し、岡本和真、中田翔の「令和ON」に連発を食らう散々な内容である。お祭り騒ぎのライトスタンドと意気消沈するレフトスタンドの対比は、この3連戦の “勢い” をそのまま表しているかのようだった。

 その後も中日サイドが沸いたのは阿部寿樹のバックスクリーン弾くらいのもので、それ以外は坂本の4安打だの赤星の好投だの、先様への接待のような時間がダラダラ過ぎる苦痛な試合運び。穏やかな春の休日に、いったいオレは何を見せられているんだ? と、強烈な虚無感に苛まれるのも無理はなかった。

 だが、勝ったのは中日だった。決めたのは溝脇だった。レフト立岡宗一郎の伸ばしたグラブと白球の間はわずか数センチ。数時間に及ぶ男たちの意地のぶつかり合いが、最後は数センチの差で決まるのだから野球はつくづくドラマだ。

相手からしたら長打あり、粘りあり、選球眼ありのイヤな打者に違いない

 それにしても「不思議な勝ち」としか言いようがない。通常であれば坂本のワンマンショーで終わるはずだった試合。それがにわかに動き出したのは、その坂本がお役御免とばかりにベンチに下がった直後のことだった。代役の廣岡大志は開幕戦こそ大野雄大を打ち砕く活躍をみせたものの、今日は同点のきっかけを作る痛恨のエラーを喫し、坂本との差を露呈する結果となった。

 一方でドラゴンズは、捻挫の高橋周平に代わって3日間ともセカンドを守った阿部がオープン戦の好調を維持するかのような働きを見せている。今日もホームランはもちろん、9回、10回ともにフルカウントから四球を選ぶ渋い働きでチャンスメークに貢献。相手からしたら長打あり、粘りあり、選球眼ありのイヤな打者に違いない。

 本職セカンドながら、年齢的にも崖っぷちの今季はどこでも守る気概でキャンプから過ごしてきたマスター。オープン戦ではレフトを守り、今日は途中からサードにも入った。開幕戦に続くサード起用だが、去年までわずか6試合で守ったのみ。緊迫した終盤の「守備固め」でやらせるにはなかなか危うい起用である。

 一時期の森野将彦を彷彿させるオールラウンダーっぷり。それでいてチーム随一の長打力を持ち、打順もクリーンアップから下位打線まで何でもござれ。あだ名の由来である「バーのマスター」に託けるなら、カクテルだけでなく日本茶からゲータレードまで提供する国籍不明のごった煮バーといったところか。

 その阿部がいなければ奇跡の大逆転はあり得なかったし、もちろん溝脇もヒーローにはなれていないわけだ。終盤もぎ取った2四球の配球チャートをみればその技術の高さは一目瞭然。ストライクゾーンに来た球は積極的に振り、ボールゾーンには際どくても手を出さない。この基本ともいえるスタンスが徹底できているうちは、たとえ高橋周平が戻ってこようともどこかのポジションで阿部を使っていくべきだろう。

 何しろどこでも守れるのだから使い勝手の良さは半端ない。セカンドなのか、レフトなのか、サードなのか。何ならビシエドに代わってファーストを任せたっていいし、元々は遊撃手で入団していることも忘れてはならない。

 本田翼が出るCMのキャッチコピー「どんな私になろっかな」ではないが、毎試合毎試合どんなマスターが飛び出すのか。今年は阿部ちゃんの使われ方も要注目だ。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter