ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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気持ちが切れた瞬間〜コロナ禍にはなかった「圧」に呑まれた大野雄大

●2-4巨人(開幕戦:東京ドーム)

 大野雄大と菅野智之。2010年代以降のセントラルリーグを代表する両エースだが、そのライバル同士のマッチアップは回数にしてわずか6度と思いのほか少ない。菅野の状態がピークに達した2016〜2018年頃がちょうど大野の低迷期に重なり、また大野が再ブレークした2019年から今度は菅野が故障がちになったことが、両者の “疎遠” の要因である。

 数少ない対戦のなかで大野が白星をあげたのは8年前の2014年までさかのぼる。そしてこれが、大野が菅野に投げ勝った唯一の登板でもある。当然、大野自身にも菅野への意識は無いといったら嘘になるだろう。

 そんな二人を比較する上で、大野にとって直近で「勝った」といえる経験は、やはり2020年の沢村賞レースということになる。勝ち数では劣りながら、先発完投型に与えられる同賞の特色ゆえに選考委員が選んだのは10完投6完封の大野だった。

 もちろん嬉しかったし、ファンとして誇らしくも思った。ただ、どこか引っ掛かりを感じてしまったのは、このシーズンの直接対決のことが心の隙間に残っていたからに他ならない。この年、2度の「大野vs菅野」の勝者はいずれも菅野だった。そのうち1度は2失点完投負けという「打線のせい」と割り切れるような内容ではあったが、負けは負けだ。

 1998年に川上憲伸が巨人・高橋由伸との熾烈な競争の末に新人王に輝いたのは、23打数1安打と完膚なきまでに抑え込んだ直接対決の結果が効いたと言われている。ならば、2020年の沢村賞が菅野であっても何らおかしくなかったのではないかーー。

 少しばかりのモヤモヤを抱きつつ、昨季はシーズン途中から菅野が戦列を離れたため直接対決は叶わず。機は熟した。開幕投手というこれ以上ない大役を担っての7度目のマッチアップ。2年越しの葛藤が晴れることを期待しながら、この日を迎えた。

コロナ禍にはなかった「圧」

 キャプテンマークを胸に刻んで臨む開幕戦。大野の並々ならぬ気合いの入りようは、試合前日のコメントからも明らかだった。だが、大舞台のマウンドに立つ大野の投球は、どう見たって好調とは程遠いものだった。球速こそ高値安定しているものの、上ずる球が多く、丸佳浩に許した先制ホームランも中途半端に入った失投を捉えられたものだった。

 毎回ランナーを出しながらも4回1失点と要所を締めるあたりはさすがだが、言い方を変えればいつ崩れてもおかしくない。気持ちだけで投げているような印象を受けたのも確かだ。

 悪い予感は的中してしまう。5回裏、いとも簡単に2死を取ってからの出来事だ。うるさい吉川尚輝をアンラッキーな内野安打で出すと、続く廣岡大志の初球に意表を突く形で吉川が盗塁。ここで木下拓哉の送球が暴投となって三進を許してしまう。

 にわかに盛り上がる球場内。3年ぶりの満席のスタジアムが、コロナ禍にはなかった「圧」を醸造する。廣岡を簡単に追い込んだものの、甘く入った真っ直ぐを痛打され、たちまち試合は振り出しに戻った。またしても失投。またしても高め。やはり今日の大野は終始不安定だ。

 それでも、まだ同点なのだ。気を取り直してファイティングポーズを作ればいい。しかし、坂本勇人の代役の一打に球場内は興奮のるつぼと化し、さらに今年から大幅リニューアルされた大型ビジョンと音響が巨人ファンのボルテージをこれでもかと煽る。このあたりはライブ会場としても評価の高い東京ドームならではの演出力である。

 空気は完全に巨人ムード。そして一度折れてしまった気持ちを立て直す余力は、今日の大野には残されていなかった。ポランコ、岡本和真の連打は打たれるべくして打たれたような安易なボールだった。痛恨の3失点。気持ちでチームを引っ張るエースが、気持ちを切らしてしまったらこうなるのも無理はない。

果たして大野は3アウト目を取るまで「攻め」の姿勢が取れていたのか

 一方、菅野も決して万全とはいえないのは球数の多さや空振りの少なさからも明らかだったが、要所になるとギアチェンジ。圧巻だったのは巨人が逆転した直後の6回表1死二、三塁の場面だ。打席には石川昂弥。打つ気満々の若竜に対し、菅野は最後の力を振り絞るようにして厳しいコースをガンガン突く。

 最後は得意のスライダーで三振に打ち取ると、マウンド上で菅野は咆哮をあげた。まさしく気持ちで投げ込んだ一球。この気合いを、同点に追いつかれたあとの大野にも見せてほしかった。

 大野と菅野。直接対決となるとどうしても勝てない大きな壁の前に、またしても蹴散らされた2022年開幕戦。3度の得点圏で凡退した福留孝介、満塁で打てなかった木下にも責任の一端はあるものの、やはり今日は「勝つ」と豪語してマウンドに立った大野の苦戦が敗因だと言わざるを得ない。

 3失点を喫した悪夢の5回裏、果たして大野は3アウト目を取るまで「攻め」の姿勢が取れていたのか。同点のショックと球場の雰囲気にのまれ、集中力を欠いた瞬間は無かったか。残念ながら、今日の大野に沢村賞投手の輝きを感じることはできなかった。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter