ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ベールを脱いだ傑物~高橋宏斗episode0~

 2022年最初の野球観戦。あえてこの日を選んだのは理由がある。純粋に佐々木朗希が観たい! ただそれだけ。ところが、チケットを購入する時点で予想ができたとはいえ、佐々木朗が登板することはない。残念ながら名古屋とは縁がなかったようだ。それでも、ドラゴンズには高橋宏斗がいるではないか。その日に投げる可能性も大いにありそうだ。覚醒の予感が漂う右腕の登板を願い、背番号19のレプリカユニフォームと共に家を出た。

戦慄の前触れ

 バンテリンドームに到着した時には、ロッテの打撃練習が始まっていた。流れていたのは、田島貴男をゲストボーカルに迎えた、東京スカパラダイスオーケストラの『めくれたオレンジ』。“東京” と “オレンジ” に反応してしまったのは、開幕が近づいているからだろう。スカパラの名曲を鼻歌交じり聴いていたその時だった。

 「パァン! !」

   試合前の喧騒を何かが切り裂いた。その主の背中には1と9の数字。キャッチボールを務める相手のミットに白球が突き刺さる度に爽快な音が会場に響き渡る。強度と距離を伸ばしていくと、震えそうになるほどの迫力に変わっていった。目測で30メートルほどの距離が驚くほど短く感じる。

 約四半世紀、野球観戦に明け暮れたなかで、恐怖心を抱くことは滅多にない。試合前からテンション爆上がりである。中京大中京高時代にも、高橋宏の投球を観る機会は何度かあったものの、ここまで圧倒されたことはない。

 正直なところ、球審の手が上がる前にもかかわらず、もう帰宅しても良いと思ったくらいだ。お金が取れるキャッチボールとは正にこのことだろう。

 苦しんだルーキーイヤーにおいて身に染みた基本の大切さ。柳裕也や小笠原慎之介に相談し、取り組む意識を変えた。高橋宏にとってキャッチボールはピッチングと同等の意味がある。単なる肩慣らしではないのだ。

 勿論、キャッチボールが良いからといって打者を打ち取ることができるとは限らない。例えば大野雄大は、吉見一起や谷繁元信といった元同僚からダメ出しを受けている。しかし、期待のホープにそんなことは関係なかった。

夢とロマンに満ちたひととき 

 立ち上がりから150キロを超える速球を連発し、カットボールとスプリットが面白いように決まる。時折見せる120キロ台前半のカーブは、対戦する打者を拍子抜けさせた。

 レオニス・マーティンや中村奨吾、ブライアン・レアードといった主力をなで斬り、ミートに優れた高部瑛斗には何球ファールで粘られても力でねじ伏せる。加えて、クイックや牽制も破綻がない。極めて主観的ではあるが、日本ハム時代の大谷翔平や、山本由伸の投球を現地観戦した時と同等のインパクトだ。沢村賞、日の丸、MLB(簡単に移籍してほしくはないが)……。壮大な夢を勝手に妄想し始めていた。

 ただ、そこはまだプロ2年目の19歳。圧倒的なポテンシャルを見せつける一方で、80球を超えたあたりから、抜けたり、引っ掛けた球が散見したのは若さたる所以か。エンジンの大きさと燃費の良さを両立する投手は数えるほどだが、背番号19は究極の領域を目指す資格のある存在。首脳陣には、チームの切り札となり得る剛腕を最大限生かす環境を整えてほしい。週に一度の登板が難しいなら、投げては抹消の繰り返しでもOKだ。

球場に行こう!

 高校球界屈指の投手として鳴らし、プロの世界でもスター街道を歩み始めた高橋宏。だが、実のところ、満員のスタジアムでの経験は多くない。それもそのはず、優勝旗を名古屋に持ち帰るはずだった高校3年時の甲子園大会は、春夏いずれも中止。ただ一度聖地に足を踏み入れた代替大会も、一般向けに開放されることはなかった。

 それだけに、皆様には2020年代のドラゴンズ、いや日本球界を背負う若武者の投球を是非とも生で堪能してほしい。傑物がより映えるのは、大観衆の視線を一身に集めてこそ。シーズン最初の登板は、本拠地開幕戦となるDeNA三連戦のいずれかであろう。一人でも多くの方が、歴史の目撃者となることを祈るばかりだ。

(k-yad)