ちうにちを考える

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「今年がラストチャンス」笠原祥太郎、不退転の覚悟で臨む2022年

〇2-0東京ヤクルト(オープン戦:バンテリンドーム名古屋)

 鬼気迫る投球だった。まだ開幕まで3週間弱を残しているが、柳裕也はあきらかに本気だった。立ち上がり、先頭の塩見泰隆に対してオール直球の3球三振。意図したように全て143キロと、近代野球ではむしろ「遅い」部類に入る球速ながら、ボールはバットにかすりもせず木下拓哉のミットにダイレクトで収まった。

 相手は昨季の日本一チームだが、そんなことで怯む “最優秀バッテリー” ではない。ここから柳の、いや柳と木下による奪三振ショーが幕を開けた。

 圧巻だったのは4回表の投球だ。山田哲人、村上宗隆、中村悠平と続く恐怖のクリーンアップに対し、バッテリーは執拗にカーブを多投する。このイニング、投じた13球のうち6球がカーブ。しかも決め球にすべてカーブを選択し、3者三振を奪うみごとな投球術を披露したのである。

 真っ直ぐを軸に、チェンジアップ、カットボール、縦スライダーと多種多様な球種をどれも決め球で使えるクオリティで投げられるのが柳の強みだが、そこにドロンとしたカーブを織り交ぜれば打者はより一層タイミングがとりづらくなる。そういえば明治の大先輩・川上憲伸も代名詞のカットボールとは別に、スローカーブを得意としていたのを思い出す。

 実は昨季、柳のカーブ投球割合は7.94%と主要球種のなかでは低い数値だった。この球で奪った三振はシーズン通してわずか4個と、あくまでカウント稼ぎや目先を変えるために投じていたことが窺えるが、それが今日だけで3個である。

「今年はカーブも決め球に使いますんで」という明確なメッセージを感じたし、わざわざ日本一チームのクリーンアップに対して “予告” する大胆不敵さ。間違いない。柳-木下のバッテリーは逃げも隠れもせず、今年もタイトルを取りに行く気満々だ。

 150キロに満たない球速で誰よりも三振を取るという、近代野球の王道に反したスタイルはいかにも玄人好み。今季はさらに磨きがかかった投球術がみられそうだ。

「今年がラストチャンス。ダメだったらもう終わりだということは分かっている」

 5イニングを1安打8奪三振無失点とほぼ完璧な内容で降板した柳にかわって、6回からマウンドを託されたのは笠原祥太郎だった。昨季わずか4登板に終わり、年齢的にも今年は背水の陣で臨むシーズンとなるが、正直いって開幕ローテに数えるのは厳しいかと思われていた。その笠原がこの段階でオープン戦に登板したこと自体が意外なら、ゲームセットまで4イニングを託されたこと、何よりも僅差を守り切る好投をみせたことは、ある意味柳の圧巻の投球よりも驚くべき出来事だった。

 3年前に病気で離脱して以降の笠原といえば、投げている球自体はよくても制球を乱すケースが目立ち、昨季も20イニング17四球と壊滅的な指標を叩いている。結果的に1イニング平均19.7球と球数がかさみ、打者の目が慣れたころに痛打される。これが復帰後の笠原のパターンになっていた。それが今日は無四球で、1イニング平均12.5球である。開幕投手に抜擢されたあの頃を久々に彷彿させてくれた。

 当時、出世街道を走る笠原に対して、同期のドラ1柳はプロの壁に苦しんでいた。出身大学など球歴の差から “下剋上” のような印象を抱いたものだが、あれから3年経って柳は球界を代表するエース格へと躍進。一方の笠原は……なんて書きたくもないが、入団前から「出身校」「指名順位」「契約金」といったゴリゴリの競争原理に支配されるプロ野球界において、比較は避けられない。

 忘れもしない2019年のゴールデンウィーク初日。試合開始の直前に、不整脈で先発登板を回避したあの日から “開幕投手” 笠原のプロ生活は暗転した。病床で引退も覚悟したという状態からここまで持ち直しただけでも立派だが、無論笠原はそれだけでは満足していない。

「今年がラストチャンス。ダメだったらもう終わりだということは分かっている」(東スポ

  サムエルも合宿切り上げて逃げ出すほどの覚悟で臨む今シーズンに向けて、年明けには滝行も敢行した。なりふり構っていられない。最後に賭けてみたいんだ--その必死さが早くも形としてあらわれた。今日のような投球を続ければ開幕ローテの5枚目、6枚目に食い込むのも夢じゃない。再び柳と同じ舞台で輝く日は、そう遠くなさそうだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter

【参考資料】

データで楽しむプロ野球