ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

MENU

若さ躍動!高橋宏斗を引っ張った女房役・桂依央利の絶妙の間合い

〇5-3ソフトバンク(オープン戦:福岡PayPayドーム)

 見慣れない光景に戸惑ったのは、きっと私だけではないはずだ。1点ビハインドの6回表、打席には鵜飼航丞。高めに浮いた直球を捉えた打球は、まるで滞空時間を楽しんでいるかのようにゆーっくりと放物線を描きながら、熱心な中日ファンが待つレフトスタンド上段に着弾した。外野手が一歩も追わない、特大のオープン戦1号アーチだ。

 追いかける展開での逆転ホームラン――夢見たことは幾千もあったが、実際にお目にかかれるのは年に数度あるかどうか。よしんば中盤以降での一発となると、その出現頻度はますます下がる。相手が背番号3桁の投手である点は差し引いて考えるべきだろうが、“値千金” と呼ぶにふさわしい本塁打は、長打力不足が叫ばれて久しいドラゴンズにおいて喉から手が出るほど欲しかった要素である。

 鵜飼はこの一発の前にも、第1打席であわやスタンドイン(というかテラスイン)かという打球を放ち、チャンスメークをしている。「鵜飼のおかげで勝った」、そう言える試合がまさかこんなにも早く見られるなんて。そして本日は鵜飼だけではなく、全体的に若さの躍動が際立つ試合にもなった。

今日はバッテリーを組んだ桂依央利にも感謝せねばならない

 3回表、2死から鵜飼がスリーベース(記録は二塁打+失策)で出塁すると、一貫して1番バッターとして起用の続く岡林勇希が内角高めのカットボールを強く引っ張り、これがタイムリーになる。アピールの止まらない岡林は、早くも立浪ドラゴンズの切り込み隊長の座を掴みつつあるのかもしれない。だからこそ、同じく期待の強い石川昂弥の不振が対照的に映るわけだが、昨日も書いたようにここは「ええでー」精神で見守っていたい。私のオープン戦に対するスタンスは、常に「ポジるけど、ネガらない」である。

 もう一人、本日のメインイベントでもある高橋宏斗の投球にも触れておかねばなるまい。立ち上がりにいきなり連打を浴びて無死一、三塁となったときはどうしようかと思ったものだが、ここを併殺の1点のみで切り抜けたのは心底安堵した。立浪監督の「まだまだやな」というイジリに対し、「試合で結果出します」と大見得を切った19歳。開幕までの登板機会は今日を含めて3回とみられ、1試合1試合が息を抜けないローテ試験となる。その初っ端から炎上となれば、ここまでの良い印象も白紙に戻ってしまう恐れがあったからだ。

 当然、本人にも “調整” などという意識は微塵もないだろう。それは今日マークした、最速153キロの真っすぐが物語っていた。持てる力をすべて振り絞り、立浪監督、落合コーチにアピールする。ギラついた若々しさが存分に感じられたマウンドだった。

 ただし、今日はバッテリーを組んだ桂依央利にも感謝せねばならない。初回を1点で凌いだものの、2回裏にも安打と四球であっさりとピンチを背負ってしまう。ここで桂は間合いを取り、高橋のもとに駆けつける。檄を飛ばすと言うよりは、リラックスさせたかったのだろう。笑顔を作り、フランクな感じで接すると、心なしか高橋の肩の力がふっと抜けたのが画面越しにも伝わってきた。

 投手が孤独に陥りそうなとき、絶妙の間合いを取り、やさしく尻を叩く。桂も気づけば9年選手である。それしきの操縦術は備わっていてもおかしくはないが、どうしても入団間もないキャンプで谷繁監督にドヤされていたイメージが強いため、つい親目線で「よくここまで育って……」と感極まってしまう。卒業式シーズンなだけに。いやいや、桂は卒業どころかこれからがプロとしての本番の始まりである。

 正捕手がシーズンの9割以上に出場していた時代とは異なり、今はどこも2枚、3枚建ての捕手制を敷くようになった。ここまでの起用を見ると、どうやら開幕の捕手登録は木下拓哉、桂依央利、石橋康太の3人で行くようだ。となると、2カードに1,2度は桂にもスタメンの機会が訪れることになる。木下に万一の事態が起きた時には、代役だって任されるはずだ。

 以前なら心もとなかったが、もう昔の桂じゃない。ひと回りも年下の投手をうまく励まし、コントロールする姿を見て、その成長を強く実感させてもらった。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter

【参考資料】

『中日スポーツ』