ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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24度目のキャンプを終えた福留孝介は、年齢なんかに負けるタマじゃない

 2月はとにかく宇多田ヒカルのニューアルバム『BADモード』をよく聴いた一ヶ月間だった。この20年間でCDからサブスクへと音楽の聴き方は大きく変わったが、この人の才能は衰えるどころかますます磨きがかかっているようにも感じる。

「気分じゃないの (Not In The Mood)」の気だるい感じを出せるのは日本のアーティストだと宇多田ヒカルただ一人だと思うし、いわゆる売れ線とは程遠い音楽性ながらこれだけのクオリティを叩き出してくるあたりが天才の天才たるゆえんだろう。

 邦楽の歴史を塗り替えた衝撃のデビューシングル『Automatic/time will tell』のリリースが1998年冬のこと。同じ頃、ドラフト会議で逆指名制度を利用してドラゴンズに入団した鳴り物入りルーキーこそが福留孝介である。ふてぶてしいコースケは記者会見の席で目標を問われると「一度は3割、30本、30盗塁をやってみたい」と “トリプルスリー” を掲げ、さらに開幕スタメンについても「自分としては100%、そのつもりでいます」と自信満々に答えてみせた。

 まだ見ぬ先輩達への配慮ゼロ。ポジションを奪われる側の気持ちなんか知ったこっちゃないと言わんばかりの図々しさ。ルーキーのビッグマウスが反感を買った例は過去にもあったが、福留の場合はこうした宣言が決して大袈裟に聞こえないどころか、むしろこの肝っ玉のデカさこそが福留らしいと思えてしまうから不思議なものだ。

 ただし星野監督は、ポジションをプレゼントする気など毛頭ない。「誰がやると言った。久慈にしても井端にしても黙っちゃおらんだろ。競争だよ」とドスを効かせた割には、オープン戦の不振には目をつむり、早くから開幕スタメン起用を決断するツンデレぶり。闘将もコースケの前では甘くなる。多分こういう選手は、立浪和義以来だったのではないだろうか。

どうせ今年もバンテリンドームの高いフェンスを難なく超えるような弾丸ライナーの一発をぶち込むだろうし、そもそも引退する気なんかさらさら無さそうだ

 時は流れて2022年。ひと足早く帰名した二軍に続いて一軍の北谷キャンプも本日が最終日。軽い練習のあと、大島洋平キャプテンの音頭で一本締めをおこない、一ヶ月間のキャンプを打ち上げた。

 立浪新監督の下、例年になく若手の台頭が話題を呼んだこのキャンプだが、その中にあって大ベテラン・福留孝介が精力的に練習する姿は一種異質にも映った。なにしろ4月で45歳である。あの史上3人しかいない両リーグ本塁打王の一人にして、現在はYouTube漫談師としても活躍する山﨑武司の引退がちょうど45歳のとき。当時の山﨑と比べても、福留は野球選手としての若々しさが半端ではない。しかも、「若いもんには負けちゃおれんからな〜」的ないわゆる若作りイズムではなく、普通に若いのだ、普通に。

 先日のオープン戦では3番レフトでスタメン出場し、無難に守備もこなすなど老け込んだ様子はまったく見られない。それどころか27日の楽天戦では、石川昂弥の一発で沸く中、動揺を隠せない投手に対して貫禄の四球をもぎ取ると、福留のトレードマーク……だと私が勝手に思っている “四球後のドヤ顔” を今季初披露。

 唇をとんがらせながらバッティンググローブを外す姿を見ると、「ああ今年も春が来たんだ」と穏やかな気持ちになれる。大昔に “ユーミン” が冬の季語に認定されたなんてニュースを見た記憶があるが、そろそろ “福留” も春の季語に認定してもいい頃だろう。プロの門を叩いて四半世紀。そのあとに生まれた赤ん坊がプロ野球選手として入団して来るようになって、もう数年が経つ。

 どうせ今年もバンテリンドームの高いフェンスを難なく超えるような弾丸ライナーの一発をぶち込むだろうし、そもそも引退する気なんかさらさら無さそうだ。だが、それでいい。福留孝介は年齢なんかに負けるタマじゃない。24年目のシーズン、今年も頼りにしてるよ、コースケ。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter