ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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人生すごろく〜達人シュート直伝で「進む」どころか「跳ねて」欲しい山本拓実!

  1年前の同時期に比べて立ち位置はどう変わっているか? 世の労働者は多かれ少なかれこうした評価に晒されているものだ。「常に進む」ことを求められる資本主義という名の人生すごろくにおいて、「停滞」は「後退」と同一視され、進めなかった者は容赦なく弾き出される。

 いわんや超実力主義のプロ野球界では1年ごとに立場がめまぐるしく変わり、3年も停滞が続けば期待値の最後尾に追いやられる事もめずらしくない。

 ではこの選手の場合はどうだろうか。背番号59、ただ今シュート習得の真っ最中、山本拓実である。13日の紅白戦ではさっそくこの新球を実戦投入。

「シュートはゴロを打たせたいボールなので、髙松選手に投げたのが一番良かった」中日スポーツ)と手応えを口にした。

 ローテの一角をうかがう山本は、今季に懸ける想いの強い一人だとみて間違いないだろう。

 地元の超進学校から同校初のプロ野球選手としてドラフト6位でドラゴンズ入団。公称167センチという小柄こそ話題になったものの、初年からいきなり一軍マウンドを踏むことになろうとはさすがに予想できなかった。翌2019年には9登板(7先発)、防御率2.98を記録。7月31日の甲子園ではプロ初勝利をマークし、大きな図体を持つ与田監督とのツーショットは「親子のようだ」と話題にもなった。

 2020年には新球スラッターを引っ提げて、春先からローテ投手として順調ぶりをアピール。いわゆるピッチデザインを学修するなど、理論を取り入れて臨んだシーズンだったが、1勝3敗と大きく期待を裏切る結果に終わってしまう。

 昨季一軍で踏んだ9登板は、すべてリリーフでのもの。シーズンのほとんどをファームで過ごし、7月2日を最後に一軍に呼ばれることは二度となかった。「期待の若手」から一転、この2年間で山本の立ち位置は大きく後退したと言わざるを得ない。

達人シュート直伝で「進む」どころか「跳ねて」欲しい

 いい球を投げているのに試合で崩れてしまう山本に対し、立浪監督は球種を増やすことを提案。その時に薦めたのが、落合英二ヘッドコーチが現役時代に得意としていたシュートだった。投球の幅が広がるばかりか、うまく習得できればそれ自体が決め球にもなり得る強力な武器だ。

 先発か、リリーフか。適性すらもあやふやなまま過ぎ去った4年間。思えば落合コーチも、同じような境遇で若手時代を過ごした選手だった。名門日大からドラ1で入団するも、大学4年時に負った骨折の影響で初登板は2年目の夏まで待たなくてはならなかった。

 その後も先発、リリーフと起用が定まらない中で年数を重ね、ようやくリリーフとして一本立ちしたのは7年目の1998年のこと。この時既に29歳。落合が刻んだ栄光の大半は選手時代後半のものである。

 全方向の変化球を操る器用な投手だったが、中でもシュートのキレ味は格別だった。右打者の懐に鋭く食い込むこの魔球で、ラビットボール全盛の投手受難時代を生き抜いた。その落合が、伝家の宝刀を伝授するというのだ。達人直伝のシュートに期待せずにはいられない。

 大卒と高卒、ドラ1とドラ6の違いこそあれど、プロ5年目時点での立ち位置は似たようなもの。ここから進むか、停滞か、あるいは後退か。同年代の大卒組が入団するこのタイミングは、いわば岐路ともいえる。幸い山本は22歳と若く、大きな怪我に苦しんだわけでもない。だから今季の山本には、「進む」どころか「跳ねる」ことを期待したい。すごろくは一歩ずつ進むだけではなく、出目次第で一気に跳ぶことができるから楽しいのだ。

木俣はようやっとる (@kimata23) | Twitter