ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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ストライクの先に~満遍なく「9.5点」をマークする岡野祐一郎はこのまま埋もれてしまうのか?

 北京五輪に沸く日本列島。平野歩夢の美技に酔いしれ、高梨沙羅とともに悔し涙を流した1週間があっという間に過ぎようとしている。

 2022年=冬季五輪イヤーということは、すなわちサッカーW杯が開催される年でもある。W杯が開幕する11月は、日本サッカーが世界の扉を開いてから丁度四半世紀。“ジョホールバルの歓喜” と称される大一番で、日本代表を勝利に導いたのが “野人” こと岡野雅行だ。しかし岡野は決勝点を決める直前まで決定的なチャンスを外し続け、その度に日本のサッカーファンは頭を抱えた。そんな昔話も今では良い思い出だ。

背水の陣

 サッカーの祭典で盛り上がるのはまだ先の話。その間はドラゴンズに限る。本日は立浪新監督下で初の紅白戦。白組の先発投手を務めたのは,“ドラゴンズの岡野” こと岡野祐一郎。2月3日のストライクテストを勝ち抜き、アピールの機会を勝ち取った。相対するは高橋宏斗。入団はわずか1年違いだが、両者の立場には大きな隔たりがある。高卒2年目の高橋宏は、昨秋のフェニックスリーグで本格化の兆しを見せ、今シーズンのブレイクが期待される身。将来に向けて足場を固めているところだ。

 対する岡野は正に土俵際。東芝の大エースとして、社会人野球の第一線で活躍したのちにプロ入りしたが、2年間でわずか2勝。昨年は2試合の登板に終わった。即戦力として入団し、歯痒いプロ野球生活を送る背番号36に要求されるのは結果に他ならない。

 だが、現実は非情だった。ストライクテストで際立っていた制球が思いどおりにならず、いきなり根尾昂に2-0から甘い速球を痛打されてしまう。豪速球で打者をねじ伏せるタイプではない投手にとって制球は生命線。どれだけ際どい所を意識しようとも、打者が術中に嵌まらないと投球は一気に苦しくなる。ブルペンで何度も球審の手を挙げることができても、実戦となれば話は別。ストライクを置きに行った球は、打者にとって格好の餌でしかない。崖っぷちの右腕は、自らの弱点を露呈する格好となった。

青天井

 「安定感」。それは岡野の最大の武器といえよう。ところが、今ではそれが物足りなさを表現する単語になっている。破綻のない投球が最高峰の舞台へ導いたものの、環境が変わった瞬間に長所ではなくなってしまった。

 体操競技では技の高度化が進み、「10点満点」のルールは撤廃されている。プロ野球においても技術の進歩は著しく、満遍なく「9.5点」をマークする岡野タイプの選手は年々肩身が狭くなっている印象を受ける。11点、12点、なかには20点を叩き出すかのような選手達と渡り合わなければいけない世界に変貌を遂げているといってもよい。そのなかで、つい引き合いに出してしまうのが高橋宏の投球だ。自慢のスピードボールと、縦に鋭く落ちる変化球で打者を圧倒する姿は、規格外の投手になることを予感させた。

まだ終わっちゃいない!

 所属先が経営危機に瀕しようと、指名漏れの屈辱を味わおうと、名門の看板を背負い続けた社会人での3年間。後に西武からドラフト1位指名を受ける宮川哲が同僚でも、大黒柱の座は揺るがなかった。都市対抗出場を賭けた大一番や、本大会初戦の先発マウンドに立つのは決まって岡野。その度に心を揺さぶる投球を披露してきた。このまま埋もれてしまうのはあんまりだ。

 25年前、遠いマレーシアの地で長髪の男がシュートを外し続けても、司令塔・中田英寿は歓喜の瞬間が訪れるまでパスを出し続けた。本日の投球を見た首脳陣が、中田のように信じ続けることができるかは神のみぞ知るところだ。次のチャンスが巡ってくる可能性は下がったかもしれない。それでも、わずかな可能性に賭けて腕を振り続けてほしい。本塁打を打たれて天を仰ぐ姿が見たいのではない。勝利のハイタッチを交わす瞬間を楽しみにしているのだから。

yamadennis (@yamadennis) | Twitter