ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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遂にキャンプイン!立浪ドラゴンズとアイドルの応援は同義だ

 いよいよ始動した立浪ドラゴンズ。異例の「補強なし」が波紋を呼び、巷では「ぶっちぎりの最下位最有力」というありがたくない称号を授かっている。ボードレールの詩集ばりに陰鬱としたファンのテンションを沖縄の青空のように一気に晴らしてくれたのは、石川昂弥や鵜飼航丞といった若竜たちの躍動する姿だった。

 特にルーキー鵜飼は69スイング中14本の柵越え、中には体勢を大きく崩しながら強引に逆方向へと運ぶといった、往年のトニ・ブランコを彷彿させる豪快な一撃もあり、戦国東都で鳴らした規格外のパワーを存分に見せつけてくれた。長打力不足、とりわけホームランでの得点が極端に少ないチーム事情にあって、待望の和製大砲の登場には否応なく期待せずにはいられない。

 かつて落合博満監督が「右の4番を育てる」と豪語してから18年もの歳月が過ぎた。長い、長すぎる。ナゴヤドームというハンデはあるにせよ、いくらなんでも長距離砲の育成を蔑ろにし過ぎていた感は否めない。スカウト、編成を含めて球団全体としての反省点といえよう。

 だが、そんな悩みもこれでお終(しま)いだ。鵜飼の存在はチームの未来を大きく変えてくれるに違いない。ちょっと大袈裟かもしれないが、それだけの期待を持たせてくれるだけのインパクトはあった。新人にこんなにワクワクするのはモー娘。に後藤真希が加入した時以来といえば、一定の世代の人にはその凄さを理解してもらえるだろう。

「ヘラヘラ笑いながらやってる選手は外すよ」

 ところでキャンプ初日といえば注目すべきは監督の訓示である。秋季キャンプでも既に訓示は垂れたが、あらためてユニフォームに袖を通した「立浪監督」を前にして選手達も一層身が引き締まった事だろう。新しい上司が新任の挨拶で何を語るのか。サラリーマンなら誰もが経験する情景だが、立浪監督の場合はこうだ。

「ヘラヘラ笑いながらやってる選手は外すよ。それくらいしっかりと緊張感を持ってやってください」

 就任当初の茶髪禁止令に続き、一貫するのは「緊張感」というフレーズだ。現代風の和気藹々とした雰囲気をよしとせず、秩序を第一に重んじる姿勢は賛否が割れるところだろう。

 ただ、忘れてはならないのはこのチームが過去9シーズンで8度もBクラスに甘んじた「球界屈指の弱小球団」であるという事実だ。しからば、あらゆる甘えを排除して根底から意識を変革するのは当然ではないだろうか。草野球や少年野球ではなく、これはプロ野球なのだから。

 そして立浪自身がそうした厳しさの中で鍛えられ、育った人物であるという点にも留意しておきたい。PL学園高では刑務所よりも熾烈といわれる環境の中で主将に上り詰めた豪胆。プロ入りすると怒号を飛ばし、睨みを効かせる星野仙一、貫禄たっぷりにオレ流を貫く落合博満という個性の塊のような二人に揉まれながら19歳にしてレギュラーの座を掴んだ。1969年に出生した189万人の同窓生の中でも間違いなく最も過酷な青年時代を過ごした男こそが、この立浪なのだ。

 それでも立浪から悲壮感や哀愁を感じた事は一度たりとも無い。常に爽やかで、健康的で、キラキラと輝き続けた30年。その姿は小柄な体型もあいまって野球選手というよりはアイドルのようであり、無骨な風貌の猛者が多い野球界において異彩を放っている。もちろん今なお輝きはほんの少しも色褪せてはいない。

 「アイドル」なんていうと軽んじているようにも思われるかも知れないが、そんなつもりは毛頭ない。そもそもアイドルはめちゃくちゃ過酷な仕事だ。AKB48のバックステージを映したドキュメンタリー映画ではステージ裏で過呼吸に陥る前田敦子や、深夜に及ぶリハーサル、果てはメンバーが熱中症でバタバタ倒れる姿といったアイドル業のリアルを克明に捉え、そのあまりに壮絶な内容が物議を醸したりもした。

 翻って立浪はどうだろうか。常人では想像もできないような修羅場、地獄を若いうちから幾度も目の当たりにしながら、そんな様子はおくびにも出さず、ひとたびグラウンドに現れれば「プリンス」と呼ばれる端正な顔立ちを崩すことなくファンに夢と希望を与えてくれる。これってまさしく「アイドル」そのものじゃないのか。つまり立浪ドラゴンズを応援するのは、立浪がセンターに立つアイドルグループを応援する事と同義なのである。

 永遠のアイドル・立浪和義が再びドラゴンズのユニフォームに袖を通し、僕らの前に帰ってきた。「ヘラヘラ笑いながらやってる選手は外すよ」ーーそりゃそうだ。選手の笑顔を見るのは試合で、それも結果を出した時だけでいい。そういえば立浪監督、以前には「負けている時にベンチで笑っている選手がいるとかね、それはちょっと考えられないですね」と話していた事もある。

 今年はゲームセットの瞬間に白い歯がこぼれるような、そんな試合が増えると嬉しいと思う。その中心にいるのは、もちろん「キング・オブ・アイドル」立浪和義だ。

(木俣はようやっとる)