ちうにちを考える

中日ドラゴンズ歴史研究家が中日の過去、現在、そして未来について持論を発表するブログです

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大嶺の純情な感情

 ゆく人がいればくる人もいるのが球界の摂理。又吉克樹の移籍表明により、界隈は俄然ソフトバンクから獲得するであろう人的補償の話題でにぎわっている。

 お金のない中日の事なので、ややもすれば金銭補償を選びかねないと危惧されていたが、加藤球団代表「基本的にそう(人的補償を選ぶことに)なると思う」と答えていることから、最悪な流れは回避できそうだ。また立浪監督に至っては「投手、内野手のリストを見てから考える」と具体的な補強ポイントを挙げており、年内には発表されるであろうその決断に注目が集まる。

 それにしても「人的補償」というシステムは、そのサイコパス感の強いネーミングもあいまって本当に残酷で容赦がない。よその優秀な社員を引き抜く代わりに、会社側が選んだ「守りたい」候補以外の人間が望まぬ転職を余儀なくされるという血も涙もないルール。ニュアンス的には「生け贄」といっても過言ではなかろう。

 もし自分が「守られなかった」側の立場だとしたら、精神的な動揺は想像を絶するものがあるに違いない。ただでさえキツい立場だというのに、新天地のファンから「なんでこいつを選んだんだ」とか糾弾された日には、正気を保てる自信など、少なくとも私には無い。

 だから立浪監督がたとえ補強ポイントにそぐわぬ選手を選ぼうとも、「なんで」「どうして」とは言わずに温かく迎え入れたいと、もし会社にFA制度があれば間違いなくプロテクトから漏れるであろう私は、心からそう思うのである。

背番号211、育成契約

 人的補償より一足早く、ドラゴンズの入団が決まった選手がいる。ロッテを戦力外になった大嶺祐太である。八重山商工時代に甲子園を沸かせたイケメン右腕も33歳。近年は怪我に泣かされ、約4年ぶりの白星をあげた今シーズンは8試合の登板にとどまった。

 背番号211で、年俸は800万円(推定)の育成契約。支配下登録への挑戦はもとより、引退した山井大介が今年、ウエスタンリーグで投げた80イニングを埋めるという役割を大嶺はひとまず担うことになるだろう。

 かつてのドラ1に課す仕事としてはあまりにも地味で、スポットライトの当たりにくいポジションだが、チームをマネジメントする上で二軍戦の運用は極めて重要な意味を持つ。すぐにでも一軍に上げたい若手投手がいるにもかかわらず、二軍の日程の関係で上げられないという事態が防げるのは、山井のようなベテランが汗水たらしてイニングを稼いでくれるからに他ならない。

 山井の引退により密かに二軍の投手運用が危惧されていただけに、今季イースタンで23試合34.2イニングに登板した大嶺の加入は十分 “補強” と呼ぶに値するものだといえよう。

「体が壊れるまで投げたい」

 そうは言いつつも、もちろん支配下を勝ち取り、一軍戦線に殴り込むような嬉しい誤算なら大歓迎だ。「二度の戦力外の末にセ・リーグで咲かせた石垣島の大輪」なんて見出しが目に浮かぶようだ。

 晴れて中日の一員となった大嶺は、球団旗をバックに決意を込めて言った。

「残り少ない野球人生の中でこういう機会をもらえて感謝しています。体が壊れるまでドラゴンズのために投げたい

 体が壊れるまでーー。誰もが容易く口にできる言葉ではない。どん底を味わった人間だから言える、重みのある言葉だ。歩んだ過酷な経歴に目を通せば、これが心底から吐き出された本音であることが分かるはずだ。

 幾多の地獄を見たプロ人生。その終着点にドラゴンズがあったのだとすれば、ファンは大嶺祐太という野球人の死に様を特等席で目撃する切符を手にしたことになる。

 いいだろう。壊れるほど尽くしたいという大嶺の純情な感情がどれほどのものか、しかと見せてもらおうではないか。

(木俣はようやっとる)